山口晃 「ヘンな日本美術史」

ヘンな日本美術史

  • ちょっと前から、本書と「すずしろ日記(1)〜(2)」が並んでいるのを書店で見かけて興味を惹かれていたところ、サマーリーディング用に思い切って購入(3冊で7,020円也)。
  • 「すずしろ日記」も面白く読みましたが、メインターゲットはどちらかというと本書の方。「小澤征爾さんと、音楽について話をする」と同様、玄人・見巧者が語る鑑賞のポイントは大変にツボであると同時に、「かつての日本人が透視図法と云う概念を知らずにいる事ができたのに対して、現在の私たちは、既にそれを知ってしまいました。自転車に乗る事よりも、一度知った乗り方を忘れる事の方が難しいように、透視図法と云うものを忘れると云うことはできませんで、それを自覚的に忘れようとすると、近代の日本画になってしまうのです」という、渡辺京二「逝きし世の面影」というか、柄谷行人日本近代文学の起源」のような、もはや実感することのできない失われてしまった感覚等の話題も好みなので大変楽しめました。
  • 欲を言うなら全般に淡泊。もっと、一読では歯が立たないぐらい質量ともにコッテリと展開して欲しい。
  • 「単に技術としての透視図法的写実に特化してしまった部分があったために、西洋の画の世界は、あれだけ真に迫った絵を描く事ができながら、写真が出てきた途端にその部分を芸術から放り出してしまうのです。それは、写実をする事が絵の目的ではないと気づいたからであり、そうした部分から解放されたと云う事でもありました」「その上で、あれこれ方法を模索しながらも、芸術において絵画(ペインティング)と云う分野が残っている状態は、透視図法的写実とは別の次元で真実らしさを表現すると云う、前近代の日本の絵画空間の在り方に近しいのではないでしょうか」というのが本書に通底するテーマであるとともに、著者の画業のテーマと言えるのでしょう。作品集も観てみたい。