- ダイヤモンド・オンラインの記事を何気なく読んでいたところ、「会社員が辞表を出す前の迷い、そして人事の非情さなどについては、古い本ではあるが、『小説に書けなかった自伝』(新田次郎・新潮社)が参考になる。この中の『夢に泣いた』というエッセイに、新田氏が気象庁を退職する寸前の葛藤を書いている。勤め人の迷いはよく現れている」と紹介されており、転職する気は今のところないものの、興を惹かれたので購入してみました。
- ほとんど予備知識がありませんでしたが、新田次郎(1912〜1980年)は、気象庁職員にして小説家(登山好きの皇太子徳仁親王が愛読する作家とのこと)。そして、「若き数学者のアメリカ」や「国家の品格」で知られる数学者・藤原正彦の父。かつ、「流れる星は生きている」の藤原ていの夫。
- 具体的には、新田次郎が妻を「希には二人で買物に出掛けるけれど、途中で喧嘩になって別別に帰ってくる」、「お互いに個性が強い信州人」と書いているのに対し、藤原ていは「並べた料理をそのままにされ、私は涙をためて、じっとがまんをしなければいけない日がつづいた」と書いていたりするところ。藤原正彦が母の「辞める辞めないといつまで繰り返しているのですか。ダラシナイ」という父に対する一喝を紹介しているあたり。味わいがあります。
- 役人としての実直な仕事ぶり、職業としての小説家の戦略や悲喜こもごもが率直かつリアルに書かれているのも非情に面白かった(関係ないですが、村上春樹「職業としての小説家」は9月10日刊行予定)。
- 伝記/自伝は面白いけれども、小説作品はあまり読む気にならないというところも似ているかもしれません。
- 「強力伝」のモデルにしたという富士山の強力・小宮山正の逸話が興味深かった。