東浩紀「ゲンロン戦記-『知の観客』をつくる」

ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる (中公新書ラクレ)

  • 批評家・東浩紀にはこれまで全く関心がなかったし、津田大介と関係の深い左翼アクティビストというイメージしかなかったのですが、新型コロナや学術会議等で意外にも中道でバランス感のあるツィートをしていて興味を持ちつつあったところに、非常に面白そうな新著が出たので発売前から予約購入。
  • 腹落ち感のある敗因分析と教訓に満ち、感情を揺さぶるような苦労話があり(代表辞任のくだりなど涙なくして読めなかった)、隅から隅まで異様に面白く、最後の最後の謝辞でホロッとさせる。感動した。
  • 単なる中小企業経営の苦労話を超えて、やりたいことの視線の高さ・ヴィジョンの明確さと現実的なストラグルの落差、その落差をなんとかかんとか埋めていく過程が明晰に語られているところが最高。それ即ち「哲学は生きられねばならない。そして哲学が生きられるためには、だれかが哲学を生きているすがたをみせなければならない」ということ。真摯。
  • スケールを求めない、SNSの負の効果との戦いについては、「観光客の哲学の余白に(23)無料という病、あるいはシラスと柄谷行人について」も短いながら読み応えあり。
  • IKEAの棚のエピソードがギラついていますが、こういう局面は誰しも間違いなくある。
  • 「領収書を打ち込みフォルダをつくりながら考えていたのは、そのような『経営の身体』はデジタルの情報だけでは立ち上がりにくいということでした」というのも物凄くわかる。「紙に印刷し、目に見えるものとして棚に並べるのは、仕事があることを思い出させ続けるため」、「全体が身体的に把握しやすい」、ペーパーレスの限界とはまさにそういうことだよなと痛感。
  • 「おまえは自分の人生を取るのか福島の問題を取るのか、どっちかに決めろという問いかけでした。そういう戦術は『論争』に勝利するにはいいでしょうが、あまり世の中のためになるとは思えません」というのもめちゃくちゃ分かる。議論の設定が間違っていはないけどおかしいことはよくある。
  • 刺激はされたものの我が身を振り返ると落ち込みそう。でも最高でした。