マーク・プロトキン「シャーマンの弟子になった民族植物学者の話(上)(下)」

シャーマンの弟子になった民族植物学者の話 上巻 / マーク・プロトキン 【本】  シャーマンの弟子になった民族植物学者の話 下巻 / マーク・プロトキン 【本】

  • 第2章「ブラック・カイマンを探して」で著者を初めてのアマゾン行に誘うラッセル・ミッターマイヤーに仕事で会ったことがありますが、CI会長として見ていたため、こんなフィールド寄りの方(「Indiana Jones of conservation」)だとは知りませんでした。
  • 生物多様性条約でいうところの、ABS(遺伝子資源へのアクセスとその利用から生じる利益の公正・衡平な配分)、より正確には、8条(j)項(伝統的知識)といったイシューに繋がる話。問題意識は理解しますが、生真面目さがやや堅苦しくも思われます。
  • 科学者としての一線を堅く守り、シャーマニズムの話などに今一歩深入りしないところも物足りなさとして感じられます(「西洋の科学者たるもの、その存在を信じるわけにはいかない世界だ」)。想像を絶するとんでもない出来事をたくさん経験していると思うのですが、性格の問題なのか筆力の問題なのか、腰が抜けるようなエピソードはあまり出てきません。
  • 口噛みのキャッサバ・ビールを嫌がったり、せっかく誘われたのにイモムシを食べなかったりと、見聞録としても、飛び抜けたオケイジョンを活かしきれていないように感じます。
  • 「爪が二本割れて黒くなっているし、その上右の親指の下が妙にむずがゆい。カマインジャに話すと、ぼくの親指を一瞥して『シカ』と一言だけ言った。荷物からマチェーテを取り出し、ぼくに抵抗する隙も与えず、爪の下の肉にさっと切れ目を入れた。彼がぼくの足の先を搾るようにすると、おぞましい卵嚢がぬるりと出てきた」というようなディテイルがもう少し豊富でもよかったかもしれない。
  • つまらないわけでは決してありませんが、「嘘だろうと思って、でも本当かもしれないと思って読み返して、やっぱり嘘だろうと思う。だけどぜんぶ本当」(池澤夏樹による「コンゴ・ジャーニー」評)というような、圧倒的・衝撃的な面白さはなく、やや期待外れ。
  • 本筋に関係のないトリヴィアですが、「中国ではよく食べられているそら豆を、地中海地方の人間が食べるとそら豆病になって、発熱し、嘔吐し、激しい溶血性貧血を起こす」や「“アボカド”というのはアステカの言葉で『睾丸』の意味で、形が似ているところからきている」というのは全く知らなかったので驚きました。