「ディア・ドクター」

ディア・ドクター [DVD]

  • NHK−BSプレミアムで6月10日放送。西川美和監督。2009年。
  • 西川美和というと、「ゆれる」(2006年)でいきなり出てきた鬼才という勝手なイメージがあったため、意外に普通だなと思いつつ観ていたのですが、鑑賞後、存外に残るものがあります。
  • ホーム上でのニアミスに被さる通行列車というベタさにやや驚いた後、いかにも映画的な唐突なラストが、何度考えても意味が良くわからないなりに余韻を残します。西川美和糸井重里のほぼ日での対談によると、「そんなに思い入れがあるわけじゃないんです、あのラストに」、「ぜんぜん、(テーマは)ないんです。あれはもう、『これは映画ですよ』ていうのを言うためのラストですから」ということらしいですが。
  • 冒頭に立ち戻ってみると、(おそらくは降圧剤を捌くため)各戸訪問をしている中、医者の娘がいる八千草薫だけは避けていたという描写もしっかりとあって、脚本の練度の高さを堪能すべく、ずるずると最後まで観返してしまいました(痔の伏線まで張ってあって感心します)。
  • 八千草薫本人にガンではなく潰瘍だと嘘をついていたのは、告知の是非やタイミングを逡巡しつつ、最後の看取り方を考えていた(八千草薫も薄々察知した上で委ねていた)ということでしょうか。
  • 閉鎖的なコミュニティーの集合的/半無意識的な強制によって、告白を許されないまま、医者という職業の司祭的な機能を負い続けてしまった人の話(西川美和曰く「告白のタイミングを失っている男の話」)。「最初は40代前半くらいの設定で書いてたんです。まだ人生に迷いがあって、あともう一回、軌道修正できるんじゃないかっていうような年齢の男性で書いてたんですよ」というのも興味深い。
  • 遁走した笑福亭鶴瓶を待つ横顔と、顔を背けて涙を堪えるシーンの2箇所で、井川遥が強く印象に残りましたが、考えてみればどちらも演技力がさほど必要ないシーン。
  • 冒頭で、笑福亭鶴瓶が捨てた白衣を着て自転車に乗っていた「しげちゃん」が、ラスト近く、朝靄の中でブルース・ハープを演奏していたと思うのですが、どういう意匠なんでしょうか。
  • 「ゆれる」(2006年)の方が良いという人も多いらしいので、機会があれば観てみたい。