御厨貴 「知の格闘−掟破りの政治学講義」

知の格闘: 掟破りの政治学講義 (ちくま新書)

  • 御厨貴東京大学先端科学技術センターを退官する際、2011〜12年にかけて6回行った最終講義をまとめたもの。
  • 週刊朝日WEB版の「話題の新刊」のレヴューで興味を持ち、帰りがけに書店で購入し、書店近くで夕食をとりながら読み始めたら止まらなくなるという、久々にドカンとくる面白さ。
  • 御厨貴という人のことをあまり深く知らなかったのですが、「私は政策の内容よりもむしろ場の回し方を見るのが好きである。ですから結果としてその政策が成功しても成功しなくてもどちらでもいい」という発言には深く共感します。
  • 「地方は現場だと言われます。確かに現場なのですが、その現場が実はリアルではない。ヴァーチャルなんです。ヴァーチャルな現場をリアルに言うことによってこの国のメディアは成り立ち、この国の中央政府は成り立っている。ヴァーチャルな現場をリアルだとどれだけ言い張れるかというガンバリズムの競争みたいなところがあります」というのは蓋し慧眼。
  • 「どの回も裏話がとにかく面白い」というレヴュー内容に偽りなく、ほほぅ、ははぁ、と感心するばかり。いちいち引用しているときりがないのですが、菅直人だけは首相にしてはいけないという後藤田正晴のオフレコ発言(「あれを総理にしたら日本は滅びるで」)、憲法改正についての研究会のまとめを小泉純一郎に報告した時のエピソード(「これが私の本音の部分ですが、小泉純一郎という人は記憶を失っています」)、竹下登小渕恵三の河口湖の共有カラオケ部屋の話(「政治家が何かを一緒にやっていくときは最後はカラオケ」)などが特に面白かった。
  • 本書を入り口に色々と手を広げたいところですが、雑談を交えながら広大な研究領域をザッとさらうこのスタイル(「アカデミズムとジャーナリズムとを、きわどくも結びつけるようなエンターテイメント」)が一番面白いのではないかという気もします。少なくとも、御厨貴「知と情−宮澤喜一竹下登の政治観」はとりあえず読みたい。