- 購入したのはいつのことだったか。昨年末に着手してついに読了。「大人の日本人男子としての嗜み」を一つクリアした爽快感。
- 第3巻で早々に正岡子規が死去した後はずっと日露戦争という「長編では主題が破綻」「長編の構成力が弱い」等の批評そのままの展開ですが、この融通無碍な筆の走りの集積が結果として群像劇としての面白さを形成。「最初の伏線が後半で生かされない」(丸谷才一)というのも否定できませんが、前半の青春群像が巧まずして日露戦争編の効果的なイントロにもなっていて不思議な魅力。
- 本人も「小説という表現形式のたのもしさは、マヨネーズをつくるほどの厳密さもないこと」「小説がもっている形式や形態の無定義、非定型ということに安心を置いてこのながい作品を書きはじめた」とあとがきで書いていますが、そういう意味ではジャズ的な小説と言えないこともない。
- 「みずからは一見阿呆のようにかまえて自分の功績を晦ますといったいわば老荘的な雰囲気」等、繰り返し語られる薩摩の伝統的なリーダー像(壮年以降は意図的に茫洋とした態度を装う)も印象的でした。
- 奉天会戦の敵将アレクセイ・クロパトキンは、ウラジミール・ナボコフ(「ロリータ」)、スヴェン・ヘディン(「さまよえる湖」)と接点があった模様。面白い。
- 風間完の表紙絵がとても良い。中野の第二力酒蔵も行ってみたい。
- あとは「国盗り物語」とエッセイをいくつか(「歴史の世界から」等)読みたい。