正岡子規 「墨汁一滴」

墨汁一滴 (岩波文庫)

  • 以前四国出張にも携えて行ったものの、延々と平賀元義の話題が続くところで挫折。今回は、粟津則雄の「興至れば、何日も続けて平賀元義の人と歌を論じ、『明星』にのった落合直文の短歌に、七回にわたって執拗きわまる論評を加える」という解説で、独特のスポンテイニアスなノリが掴めたおかげか、特段難儀はしませんでした。
  • 「ガラス玉に金魚を十ばかり入れて机 の上に置いてある。余は痛みをこらへながら病床からつくづくと見て居る。痛い事も痛いが綺麗な事も綺麗ぢや」といった「心のありようをあざやかに見てとることが出来る」息をのむような述懐も多数。
  • 松岡正剛の千夜千冊で「文語調に口語が飛来するところといい、月並俳句の添削ぶりといい、脊椎カリエスの苦痛を忍び、喀血しながらも、その自分を軽く罵る速さや潔さといい、それらを自在に編んで、とくに気張りもしないその書きっぷりといい、非常にすばらしい。明治屈指の随筆である」と紹介されていたのも肯けます。
  • 以上、「子規という人の全体が、批評意識の鋭い運動をはらみながら、実に自然にのびやかに立ち現れている」(粟津則雄)魅力は腹落ちしましたが、「病牀六尺」や「仰臥漫録」まで読み進めたくなるほどでもないといったところ。