星野博美「転がる香港に苔は生えない」

転がる香港に苔は生えない (文春文庫)

  • 図書館活用。前々から興味があった作品を昨今の香港情勢で思い出したもの。飛ばし読みするには面白すぎ、貸し出し+延長を2回繰り返しジックリと読了。
  • 1997年の返還前後の2年間の、海外生活雑記であり、香港の市井の生活者との交流の記録というだけで部類に面白い。著者は1986年から香港に留学経験があり10年振りの再訪であるというところも作品の彫りを深くしている。
  • 大仰な分析や政治的メッセージを排したスケッチになっているところが好印象。初対面の豪国籍華僑に婚姻を迫る女性、カナダ移住(パスポート取得)という人生の選択を悔いる阿強など、強く印象に残る。
  • あれから23年、当時はなんとなくの予感でしかなかった中共への恐怖はガッチリと現実的な問題として目の前に現出しており、今こそこういったルポが読みたい。アヘン戦争まで遡る歴史の連続性も痛感。
  • 面白くかつ切ない良い作品だった。