「アンダーグラウンド」

アンダーグラウンド通常版(スペシャル・プライス) [Blu-ray]

  • NHK-BSプレミアムで8月26日放送。エミール・クストリッツァ監督。1995年。
  • なにはともあれ劇中で演奏される狂騒的なブラスバンドインパクトが絶大。チョチェク/ジプシー・ブラスというバルカン半島で19世紀頃興った音楽のジャンルがあるようですが、どこまでがトラディショナルでどこからがゴラン・ブレゴヴィッチによるアレンジなのか見当がつかない。えらく現代的でパンキッシュで格好良い。
  • 才気はほとばしっているし、長さにも関わらず2回観てしまう魅力はあるものの、バルカンの歴史や風土へのエキゾチシズムとの区別がうまくつかない。
  • ミキ・マノイロヴィッチラザル・リストフスキー、ミリャナ・ヤコヴィッチの組合せも魅力があった。
  • 船上の結婚式(クロとナタリア)と地下の結婚式(ヨヴァンとエレナ)が音楽も相まって最高でしたが、2組とも式だけで結婚が事実上成立していないのか。噛み切る電線と電気ショック拷問、イヴァンの2回の首吊り、回りながら踊るマルコとナタリアと燃えながら回り続ける車椅子、と他にもいくつか前後半で対を構成。
  • リアリズムから徐々にファンタジーに移行していって最後はフェリーニ「8 1/2」。地割れして流れ行く小島の映像に驚きましたがどうやって撮影したんだろう。
  • セルビア的(英雄的なセルビア人対親ナチの裏切り者スロヴェニア人とクロアチア人)で大セルビア主義的(旧ユーゴスラビアユートピアとして美化)という政治的な批判については「そうなのかな」という程度ですが、スラヴォイ・ジジェクの批評が面白かった(「『アンダーグラウンド』の問題点とは、シニシズムの罠に陥ってしまい、この隠微な『地下世界(アンダーグラウンド)』を好意的距離の下に呈示しているところにある」「バタイユもどきの過剰な蕩尽によるトランス状態、飲んだり喰ったり、踊ったり姦淫したり、この狂騒的リズムの延々たる継続-民族浄化主義者の『夢』はこういったものから成っているのだし、ここにこそ、『彼らは一体どうしてあんなことができたのだろう』という問いに対する答えがあるのだ。もし、戦争の標準的な定義が『他の手段による政治の継続』であるとするなら、民族浄化とは、他の手段による(一種の)詩の継続とはいえないだろうか」)。
  • 追記。2月24日、ロシアがウクライナ侵攻開始。クストリッツァは熱烈なプーチン支持者。