古今亭志ん生 「NHK落語名人選(1)」

NHK落語名人選(1) 五代目 古今亭志ん生 黄金餅・火焔太鼓

  • 何故か「NHK落語名人選(82)」を先に購入してしまった古今亭志ん生。改めて大本命「黄金餅」と「火焔太鼓」収録の「NHK落語名人選(1)」を。随分前に購入して聴いていたのですが、改めてメモを作成するのに手間取りました。
  • ライナーによれば、「人情ばなしなので落ちはなく、『江戸名物黄金餅の由来の一席』と結ぶ。志ん生の若いころ、二代目五明楼玉輔に習い、長いブランクののち高座にかけたもので、四代目橘家圓喬の所演にも感動したというから、なんらかの影響は受けているのだろう」とのこと。
  • 「薬久層倍(くすりくそうばい)」=薬の値は原価にくらべて非常に高く、暴利をむさぼっているとしていう。
  • 道順メモ。「わぁわぁ言いながら、下谷の山崎町を出まして、あれから上野の山下へ出て、三枚橋から上野広小路に出まして、御成街道から五軒町へ出まして、その頃堀様と鳥居様というお屋敷の前をまっすぐに筋違御門から大通りへ出まして、神田の須田町へ出まして、新石町から鍛冶町へ出まして、今川橋から本白銀町へ出まして、石町から室町へ出まして、日本橋を渡りまして、通四丁目から中橋に出まして、南伝馬町から京橋を渡ってまっすぐに、新橋を右に切れまして、土橋から久保町へ出て、新橋の通りをまっすぐに、愛宕下へ出まして、天徳寺を抜けまして、神谷町から飯倉六丁目へ出まして、坂を上がって飯倉片町、その頃おかめ団子という団子屋の前をまっすぐに、麻布の永坂を降りまして、十番へ出まして、大黒坂を上がって一本松から、麻布絶口釜無村の木蓮寺に来た時には随分みんなくたびれた」台東区から港区まで死体入りの菜漬けの樽を担いで歩けばそれは疲れる筈です。
  • 京須偕充 の解説が相変わらず簡潔にして的を射ていて素晴らしい。曰く、
    • あまり気持ちのいい噺ではないが、五代目古今亭志ん生が飄々と演じ、変わった噺のおもしろさというものを十二分に教えてくれた。志ん生そのもののように無頼で呑ん兵衛な和尚のお経が爆笑をさそったし、(中略)地名の言い立て「道中づけ」が異色のポイントになった。「みんなくたびれた」のあと、半呼吸おいて「あたしもくたびれた」というペーソスが絶品とされた。
    • サゲがない人情噺の形式だが、志ん生によって滑稽噺へと変質したといえよう。
    • あの世まで金を持っていこうとする西念、遺骨からお宝を取り出そうとする逞しい江戸っ子金兵衛、茶殻で焼香しながらいい加減な読経をする無頼漢の泥酔和尚と、この噺の人物はことごとく常人離れしているが、そこに不思議な魅力が生まれている。
  • 続いて「火焔太鼓」。ライナーによれば「初代三遊亭遊三幕臣出身・圓朝門下)の所演を、前座時代に一度聴いただけで、二十年ほどたってから高座にかけ、以後徹底的に手を加えて編み上げた」、「ギャグも『あなたの判を押しといてください』だけは遊三ゆずりだが、あとは志ん生の独創であり、もとはたいした落語でもなかったものを、これほどの名作に変えてしまった。−志ん生の豊富な天分と強烈な個性に感嘆させられる」とのこと。
  • スグリを取り去ると噺がなくなる、と言われるだけあって今聞いても猛烈に可笑しいクスグリが山盛りです。中でも「古いこの額を買って、ことによったら小野道風の書いもんじゃねェか、なんてことを腹ン中に思って、あくる日ンなってこう陽のあたってるとこでよぉく見ると『今川焼』としてある」と「なんだか甚兵衛さんと火鉢と一緒に買っちゃったような心持ちがする」、「図々しいから家に生涯居るかもしれねぇ」は可笑しい。
  • 「清盛の尿瓶」ぐらいなら分かりますが、「小野小町が鎮西八郎為朝(源為朝)ンところへやった手紙」や「岩見重太郎(薄田兼相)の草鞋」と言われても、日本史の知識不足で俄にはピンと来ません。昔の人は講談などで親しんでいたのでしょうか。
  • 「内輪内輪に食べる」というのはどういうことなんでしょうか。控えめ・少なめに食べる、ということでしょうか。
  • 山場となる甚平衛さんの泣きっぷりとそれに重ねられる奥さんの腰抜かしっぷりが猛烈に可笑しい(「150両!もう少しだから我慢しろ!」「ざまあみやがれ!俺も水飲んだんだ、そこんところで!」)。
  • 出ました「びっくりして座り小便して馬鹿ンなっちゃうと承知しねえから」。訳分かりませんが必殺フレーズ。
  • 「なお、『世に二つというような名器』とは、火焔太鼓が左右一対をなしているためである」とのことですが、それは考えすぎという説もあるようです。