梯久美子 「散るぞ悲しき−硫黄島総指揮官・栗林忠道」

散るぞ悲しき―硫黄島総指揮官・栗林忠道 (新潮文庫)

  • どんなもんかしらんと書店で手にとって開いた瞬間、「太郎君ヘ、御父さんは今度コンナイー自動車ヲ買フタノ」、「たこちやん!元氣ですか? お父さんは元氣です」というあまりにもチャーミングな手紙の写真で一発落涙。
  • 「当時、東京ではほとんど見られなかった油虫(ゴキブリ)」という記述に吃驚しました。やはり温暖化しているのでしょうか。
  • 誇り高く生きる、自分の信念を貫くということはもちろん素晴らしいのですが、それに加えて2万余人の「全軍に『ここで死ね』と言い切った。この島を守ることが本土を守ることにつながるのだから本土決戦のつもりで、全軍が死ぬまで戦い抜くという目的を明らかにして徹底させた」(半藤一利)というところが実に素晴らしい。
  • 米軍の猛烈な砲爆撃〜「おれたち用の日本人は残っているかな?」〜「彼らは間違っていたのである」という展開にも痺れる。
  • 全編通じて泣けて泣けて困るのですが、特に泣かせるのが第八章「兵士たちの手紙」。タリーズ・コーヒーでホロホロと落涙してしまいました。
  • 例えば独立機関銃第二大隊小林一作(「正幸」とは出征後に生まれた長男)。
    • 「待望久しかりし正幸の写真たしかに受け取りました。差出人が正幸となって居るからこいつだなと、外に二、三通も手紙は有ったが真先に開封したよ。大きくなったものだね。良くこんなに肥えらせて育ててくれた。有り難う。礼を言う。今後とも充分気を付けてくれ。(中略)早速ボール紙を見付けて手頃の写真立てを作り棚に飾って毎日眺めている、そのうち正幸に穴があくかも知れんぞ」
    • 「正幸と邦子が仲良く一緒に撮っている写真、十六日に受け取った。大きくなったね。(中略)こんなお人形さんのように可愛らしい子供を可愛がってくれなくては、世界に可愛がるような子供はいないよ。俺がそう言うたと皆に言うてくれ。天幕の切布で袋を作り、常時、服の物入れに入れて肌身離さず抱いていて時折出しては正幸と話をしている」
  • 例えば江川正治・光枝夫妻。
    • 「今も寝顔を見ながら、ああ私も仕合せだと思いました。こんなに可愛い者を三人も与えられ本当に有り難いと思います。きっときっと喜んでいただくような良い子に育て上げましょう。毎日の様子、お目にかけたいようでございます。精々ハガキをかきましょう」
    • 「凡庸、気むずかしき夫に仕えて真に内助の誠を致し、また子供等にとりては、こよなき母として精進してもらい、今さら礼の述べようもない。平素、折にふれ事に当たり、もっと謝意表明の手段もありしならんに、一概に気持ちさえあらばと、いつも独り合点にて、これといって労を犒うことをせざりし事、何とのう心残る次第なるも、万事悪しからず許してもらいたい」
  • 栗林忠道礼賛一辺倒だったりやや描写が情緒的すぎる箇所があるかなと思わないでもないですが、素晴らしいノンフィクションで猛烈に揺さぶられ、感動しすぎて思わず自分の死に場についてひとしきり想いを巡らしました。