- 昨年3月に読了した「悪い時 他9篇」以来のガブリエル・ガルシア=マルケス。
- 短編6篇(「大きな翼のある、ひどく年取った男」、「奇跡の行商人、善人のブラカマン」、「幽霊船の最後の航海」、「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」、「この世でいちばん美しい水死人」、「愛の彼方の変わることなき死」)は、以前ちくま文庫で読んでいたこともあり、1年程前に楽しく読了していたのですが、本命「族長の秋」が相当に手強い。
- 改行のない、満遍なく活字の詰まった黒い紙面に圧倒されて、冒頭周辺で長いことウロウロしていましたが、細部に拘ることを止め、流れに身を任せるようにサラリと読もうとギアを切り替えた瞬間から俄然面白く読めるようになりました。
- とはいえ、大統領という縦軸が極めて明瞭であること、また、主語や時点が変幻自在に入れ替わる濃い文体に鑑みれば、100〜150ページぐらいでコンパクトにまとめた方が全体のバランスは良いように思いますが、全体のバランスが一読で分からないような迷宮的な構造を希求したということなのかもしれません。
- 全体の段落構成の解説や各エピソードの時系列な整理(実質上6つのセクションから構成、そのうち5つの冒頭が大統領の死体を発見する場面から開始?)があれば、もう一度読み返したい気持ちもなくはないのですが、今はもう読了したという開放感で一杯。「権力の孤独についての長大な詩」らしいので、断片的なイメージの鮮やかさが「柿の種」的に堪能出来ればそれで良しとします。
- 「百年の孤独」(1972年)を乗り越えて次に向かうという意識で探求された実験的文体ということらしいのですが、それが成功しているかどうかは邦訳では判断は困難ではなかろうかと思われます。
- 「政敵が暗殺を逃れるために犬に変身していると信じて国中の黒犬を抹殺したハイチのデュバリエ」、「二十歳以上の国民全員の結婚を命じたパラグアイのフランシア」、「供された食事に毒が入っていないかを見極めるための振り子を発明したエル・サルバドルのエルナンデス=マルティネス」、「幼少期にベネズエラからの亡命者を通じて、三十年近い独裁を強いたフアン・ビセンテ・ゴメス将軍−死の発表ののちに『復活』を遂げた」などという解説を読むと、ガブリエル・ガルシア=マルケスという作家の創作の秘密を理解するためには、まずこの中南米的な世界の在り方に馴染まないと道は遠く険しいという気がしてきます。
- 次は「予告された殺人の記録/十二の遍歴の物語」。「予告された殺人の記録」は新潮文庫で読んでいるので、サッと読み終わって「コレラの時代の愛」に行きたい、とは思っているのですが、また1年後ということになりそう。