美濃部美津子 「三人噺−志ん生・馬生・志ん朝」

三人噺 志ん生・馬生・志ん朝 (文春文庫)

  • 銀座教文館の落語コーナーで発見して、その薄さと字の大きさにフラッと購入。
  • 既読の話題も多いのですが、「何しろ空襲警報が『ウーッ』って鳴ろうもんなら、一目散で逃げ出すんですよ。逃げるったって、お父さんどこへ行っていいのかわかんない。ただもう闇雲にターッてはしってっちゃうんだから。そいで、迷子になっちゃう。だから、あたしたちが後を追っかけて、捕まえなきゃならないんですよ。これが空襲んときのうちの日課」というのは驚愕の駄目エピソード。
  • 落語以外は何も出来ない父親といいつつも、「あたしが仕事から帰ってきたとき、お父さんは浴衣を着てお酒を飲んでましたね。そこでどんな話をしたとか、お父さんの詳しい様子は覚えてないんだけど、ただただ無事で帰ってきてくれて嬉しかったというのは記憶に残ってます。これでまた、家族で元のように暮らせるんだなって安堵感でいっぱいだったわね」と、満州から帰国した日の記憶を語っていて、それでも家長としての信頼感はあったのかと、当たり前の話ではありますが妙に印象に残りました。
  • 妻の葬儀では泣かなかったが文楽の葬儀では号泣したと言われることが多いように思いますが、「だけど、お母さんのお葬式が終わった翌日−。朝、お父さんと二人でごはんを食べながら、テレビを見てたんです。そしたらテレビから親友だった文楽さんが亡くなったってニュースが流れたんです。そのときですよ、お父さんが声をあげて泣き出したのは。『みんな、先に逝っちゃった−』文楽さんの死に、お母さんが死んじゃったって思いが重なったんでしょうね」という説明はさすがにリアルで深く納得しました。
  • 当初、古今亭志ん朝の一周忌に合わせて刊行したようですが、うなぎ断ちのエピソード(「『お三人さんなのに、四ついるんですか?』ってお店の人に言われたんで、『ちょっと、陰膳をしたいから』志ん朝に、と思ったんですよ。あの子にどうしてもうなぎを食べさせてあげたかったの。」)がしみじみと泣かせます。
  • 「お酒はもう、三人とも好きでした。でも、飲み方には、それぞれの性格の違いが出るもんで」という出だしから、三者三様の飲み方が語られる「お酒」も味わいがあって良かった。
  • あとがきに出てくる「あたしの忘れかかっていた昔話を上手に引き出してくれたニッポン放送アナウンサーの塚越孝さん」とは「フジポッドお台場寄席」のあの人ですか。