小西康陽 「マーシャル・マクルーハン広告代理店。ディスクガイド200枚。小西康陽」

マーシャル・マクルーハン広告代理店。ディスクガイド200枚。小西康陽。

  • 当初は5月1日発売とアナウンスされていたと思うのですが、意味不明の混乱を経て5月末にやっと発売。まだ発売してないのかなと銀座ブックファーストを探していたところ、「日曜の夜などによく来ます」といった内容の小西康陽直筆とおぼしきポップがありました。
  • 小西康陽のディスクガイドというと「手に入らぬ作品ばかりを選ぶ嫌味なデイスクガイド」クラブ仕様という先入観で敬遠しようと思っていたのですが、「レコード・コレクターズ6月号」のインタビューで「個人的には、2年前に病気をしたこともすごく大きい。それがきっかけというわけでもないんですが、その前後から聴くものがすごく変わってきていて。クラブでかけておもしろいものよりも、家でひとりで聴いているレコードにシフトした。ちょうど自分の音楽の好みが入れ替わる時期にこの依頼が当たっていたんですよね」と語っていたのが印象に残り、RCAとユニバーサルからCDをリイシューする連動企画にも興味を引かれて購入してみました。
  • 「読み難く、いや視覚的に楽しい」と言うとおり、拘りに溢れた2色刷りのレイアウトもレディメイドな感じで胸躍りますが、豊富な知識と溢れる思いをギュウギュウと「体言止めばかり」で詰め込んだ文章も、時にまとまりのない印象を残しつつも、強い思い入れを感じさせて魅力的。「これがエレヴェイター・ミュージックだと言うのなら、その行く先はもちろん最上階のスイート・ルーム。『歌のない歌謡曲』に於けるドン・ペリニオン」(パーシー・フェイス)、「現代の若いリスナーにも、この作品はいまだ力を持つのだろうか。就職なんかしないで生きよう、と思わせる説得力を」(フィフス・アヴェニュー・バンド)、などといったフックの効いたフレーズの頻発。
  • 特に、ポール・マッカートニー「ラム」の解説(「この作品を聴く度にジョン・レノンを思う。いつの間にかリーダーシップを取り、好き勝手にバンドの方向性を決めたかと思えば、以前のように有機的な関係を取り戻したいなどと言い出し、挙句の果てに独り脱退してしまった年下のメンバー。解散した後に届けられた本作を冷静に聴くことなど当然出来なかったはずであり、その敵愾心はあるいは人生の終わりまで保たれたのかもしれない。だが自らもかつては『アクロス・ザ・ユニヴァース』を作ったほどの音楽家だった男。この作品がまったく心に響かなかったとは考え難い。自分とこの男では才能の大きさが違う、と思い知らされる残酷な経験こそ、世界中でジョン・レノンだけが味わったものだ。無神経さと繊細さがこれほど見事につづれ織りとなった作品も珍しい。『ラム・オン』の導入部や『アンクル・アルバート』の間奏の詩的な瞬間。たしかに鼻持ちならないほど嫌な男だったのかもしれない。」)は泣けました。
  • ナナ・ムスクーリ「ナナ」やローラ・ニーロ「ゴナ・テイク・ア・ミラクル」、タンバ4「サンバ・ブリン」、モダン・ジャズ・カルテット「フォンテッサ」等々聴きたいものもたくさん見つかりました。というかほぼ全部聴きたい。しばらく手放せそうにありません。
  • 「皆さんが愛する限り、音楽の素晴らしさは永遠のもの、なのです」というピュアなメッセージが泣かせます。村上春樹(1949年生まれ)や坂本龍一(1952年生まれ)に比べると一世代下(1959年生まれ)なので、おじいちゃん化するのはまだ早い気がしますが、加齢と病気で韜晦傾向が薄れたのか。
  • 次は「僕は散歩と雑学が好きだった。小西康陽のコラム1993−2008」。こちらも非常に楽しみ。