本田靖春 「誘拐」

誘拐 (ちくま文庫)

  • 「1963年、『吉展ちゃん誘拐事件』には小説を超える現実があった−これほど魂を揺さぶられたことはない」という帯の惹句に誘われて購入したのはいつのことだったか記憶も定かではありませんが(奥付は2006年2月20日付の第二刷)、魚住昭渡邉恒雄−メディアと権力」を読んだり黒澤明「天国と地獄」を観たりする度に、早く読みたい早く読まねばと思いつつ、逆に「不当逮捕」や「我、拗ね者として生涯を閉ず(上)(下)」、魚住昭「特捜検察の闇」等を購入してストックを増やしてしまったりしながら、やっと着手したと思ったら引き込まれて瞬く間に読了。
  • 「時間にとらわれずに納得が行くまで取材を尽くし、そうして得たファクトをたっぷりとしたスペースの中で丹念に積み上げて、一つの事件の全体像を描いてみたい、ということであった」と本人があとがきで語るとおり、一つ一つの事実をソリッドに積み上げることでもたらされる、マイケル・ギルモア「心臓を貫かれて」に似た、叩きのめされるようなヘヴィーな読後感。「ノンフィクションの最高傑作」の称号は伊達ではありません。
  • 最高潮に白熱した「自供」の章とそれに続く終章「遺書」の静謐さのコントラストが白眉。小原保が処刑前日に詠んだ辞世の歌「明日の死を前にひたすら打ちつづく鼓動を指に聴きつつ眠る」がシンとした気持ちにさせます。
  • このままの勢いで、本田靖春「我、拗ね者として生涯を閉ず(上)(下)」にいきたいところではあるのですが。