ジム・フジーリ 「ペット・サウンズ」

ペット・サウンズ (新潮クレスト・ブックス)

  • 随分前に購入していたものの、ビーチ・ボーイズ「ペット・サウンズ・セッションズ」ボックスと一緒に120%堪能しようと欲をかいている間に随分時間が経ってしまいましたが、何となく機が熟した気がしたので、ボックスと併せてようやく手を出しました。村上春樹訳。
  • 父マリー(Murry)・ウィルソンの劣悪な言動が再三描かれていますが、「彼はすべての子供を殴った。とりわけ真ん中の息子であるデニスに対する殴打はひどかった」という事実を知ると、デニス・ウィルソン「パシフィック・オーシャン・ブルー」のアンニュイなジャケット写真に涙腺が弛みます。
  • ビーチ・ボーイズは燃え尽きてしまったのだ。彼らは引き時を逸してしまった。ビートルズは一九六九年一月三十日、ビルの屋上で、クリーンに解散した。『これでオーディションに合格できたかな』と言って。その後彼らがやったことは、ほとんどどれをとっても伝説の強化につながった。その後ビーチ・ボーイズがやったことはほとんどすべて−たとえば一九七九年に出した『グッド・タイミング(Good Timin')』−伝説の足を引っ張る役目を果たしてきた」という比較は、リアルタイムで見ていたファンとしての羨望が生々しく感じられて良いです。
  • 「ペット・サウンズ」というアルバムを聴いたことがなくても単純に読み物として面白いとか、これを読んだら必ず「ペット・サウンズ」が聴きたくなるとか、そこまでのものではなさそうですが(読み通すのも辛いのではないかと思われます)、少なからず「ペット・サウンズ」に関心のある人であれば読んでみるのも一興、という感じ。
  • 「ペット・サウンズ」の解説としては、既に我が国には至宝とも呼べる山下達郎のライナーノーツがありますので、飢餓感が満たされるという感じは殆どありません。あのライナーは英訳して「ペット・サウンズ・セッションズ」のブックレットに載せる価値があると思う。
  • 翻訳作品のあとがきを集めて「村上春樹あとがき集」なんか出したら相当程度売れそうな気がします(もちろん買います)。佐藤良明・柴田元幸編「ロック・ピープル101」収録のビーチ・ボーイズに関するエッセイや、ブライアン・ウィルソン選曲によるベスト・アルバム「カリフォルニア・フィーリン」のライナーノーツなどもまとめて読めると嬉しい。