- 「族長の秋 他6篇」(5月末読了)に続いてガブリエル・ガルシア=マルケス。
- 「予告された殺人の記録」はガルシア=マルケス本人によれば最高傑作。以前、新潮文庫で既読の作品を今回改めて再読。
- 実在の事件をベースにした中編。魔術的要素を廃したリアリズム路線で、ギュギュッと高密度でまとめられており、コンパクトながら素晴らしい読み応え。
- ガルシア=マルケスの親友・故アルバロ・セペダ・サムディオが考え付いたという、事件後のアンヘラ・ビカリオとバヤルド・サン・ロマンの再会エピソードに違和感を覚えたのですが、「完結性ということで言えばこのエピソードは物語からはみだしている。しかし、それは『予告された殺人の記録』の読後感を大きく左右するばかりでなく、後に書かれる『コレラの時代の愛』のモチーフにもなる。ガルシア=マルケスの作品はそれぞれが独立している一方で、すべてがひとつの世界を作っているとも言えるのだ」と野谷文昭もあとがきで述べていました。
- やや衒奇的なタイトルだと感じていたのですが、「予告された殺人の記録」と「知らされた死のニュース」のダブル・ミーニングになっていると知って、印象がガラッと変わりました。
- 「十二の遍歴の物語」は著者の緒言を読むと「諸々の遍歴を経た12の短編」ということのようですが、ヨーロッパのラテンアメリカ人をテーマにした短編集。
- 切ない「大統領閣下、よいお旅を」と、悪夢のような「『電話をかけに来ただけなの』」が特に印象に残りましたが、全体にエトランゼの切ない感覚が漂っていて良かった。
- 「眠れる美女の飛行」において、川端康成「眠れる美女」が「京都の町人の老人たちが途方もない金を払って、町で一番美しい娘達が麻酔にかけられて裸で眠るのを見つめながら一夜を過ごし、同じ床の中で愛の苦悩に悶えるという物語」と紹介されていましたが、本当にそんな作品なんでしょうか。「わが悲しき娼婦たちの思い出」の着想のベースにもなっているようです。
- 最後に収録されているノーベル賞受賞スピーチ「ラテンアメリカの孤独」は、結びの部分が全然理解できなかったのですが、「今年スウェーデン文芸協会の関心を呼んだのは、そうした異常な現実であって、ただ単にその文学的な表現ではない、と私には思えてなりません。それは紙上の現実ではなく、われわれと共に生きていて、日常茶飯のことである無数の死の瞬間を支配する現実なのです。それはまた、幸福と美の溢れる、飽くことのない創造の源泉であって、郷愁を抱きつつ放浪するこのコロンビア人としての私は、たまたま幸運によって掬い上げられた、その一滴でしかないのであります。詩人と物乞い、音楽家と予言者、軍人と悪党。あの桁はずれな現実から生まれたわれわれは皆、創造の力を借りることは殆ど必要ではありませんでした。ただ、われわれにとって最大の問題は、われわれの生き方を真実性のあるかたちで表現するために必要な、既存の手段の欠如でありました。これこそが、皆さん、われわれの孤独の根源なのです」という発言は興味深い。
- ガブリエル・ガルシア=マルケスからの繋がりで興味を持ち、ウィリアム・フォークナー「アブサロム!アブサロム!」も購入してあるのですが、これは暫く先送り。次は「コレラの時代の愛」。