- 「桂米朝上方落語大全集第四期」、第三十八集は「千両みかん(1972年9月19日。京都会館)」、「風の神送り(1974年4月21日。京都府立文化芸術会館)」の2つ。
- 「千両みかん」は、京須偕充によりますと、「もともとは金銭にかかわる錯覚を題材にした上方噺」で、「番頭がみかん探しに狂奔し、主殺しの極刑におびえるあたりに力を入れ、万惣での緊迫の発掘劇につなげるのが演者の腕の見せどころだが、いちばんおもしろいのは若旦那の言う形容をすべて女性に結びつけ、番頭が一人合点したあげくにずっこけるところ」とのこと(上方なので万惣ではなくて天満のみかん問屋ですが)。
- 桂米朝の解説によると、「この落語は、そもそも夏場にみかんが食べたいということから、死ぬの生きるのという病気になるといった、極めて不自然な、無理な設定が根本となって」おり、「この無理を不自然さをお客に感じさせないように、自然にはなしを進めてゆくことが大事で、こう言ってしまえば、手品師がタネ明かしをしてしまったような事になりますが、この辺をスムーズに運んで、番頭が表へ出て探し廻るところまで、聴客を案内してしまえば、もうその不自然さは消えてしまうのです」とのこと。
- 京須偕充も「三代目桂米朝は知的な表現だが、軽みと冴えがあってバーチャルセンス豊か」と書いていますが、「極めて不自然な、無理な設定」と「たんなる勘違いによるサゲ」を自然に聴かせるところが力量なのでしょうか。
- 以下分かった範囲でメモ。
- 順季(順気)=順当な季節(順当な気候)
- 竹矢来=竹をあらく交差させてつくった囲い
- 下駄ぐち=下駄を履いたまま
- 赤物=果物
- のれんの元入れ=評判への出資
- 「風の神送り」は、桂米朝の解説によると「この落語もほとんど滅びていたのですが、昭和四十二年でしたか、私が復活したもので時折りやらせて貰っていますが、今は滅びてしまった風習のはなしなのに、よく聞いて下さいます」とのこと。
- 以下分かった範囲でメモ。
- 根の国=地底または海上のかなたにあると考えられた古代の他界の一つ。あらゆる災いや罪・汚れの流しやられる所と考えられた
- 用心篭=昔、火事などの際、家財を入れて運んだ大きなかご
- 念達=仕事に取りかかる前に関係者の了解を求めること
- 波銭=寛永通宝=江戸時代の銭貨のうち裏面に波の模様がある四文銭
- おてか=手掛け=妾
- 立峰=キタの茶屋。明治期の名店案内には載っていた
- 引祝い=芸者や芸人が廃業するときの、披露の祝い
- 生え下がり=もみあげ
- トクサ(砥草)=トクサ目の常緑性シダ植物。茎をゆでて乾燥させたものを木製器具や角・骨を磨くのに用いる
- 湯巻(いまき)=腰巻き
- シラミ紐=江戸芝金杉通3丁目の鍋屋源兵衛の店で売り出したシラミよけのひも。布のひもに薬を塗ったもの
- 褄持つ人=芸者
- 照らす=恥をかかせる
- 更紗=平織りの布にさまざまな方法で小さな柄をつけた布
- 御堂さん=北御堂(津村別院)と南御堂(難波別院)
- シッポク=うどんにカマボコ、しんじょう、卵の厚焼き、シイタケ、ネギなどを加えたもの
- 五貫からげ=銭五貫を紐でからげたもの
- 火消し壷=燃え残りの炭火を入れ、蓋をしめて火を消すための壷
- 四ツ手網=敷網の一種。正方形の網の四隅を十文字に渡した竹などで張り、その交点に、ひも、または差し出し棒をつけたもの。
- ゴモク=くず。ごみ。塵芥。五目、種々の物の意。
- 夜網=夜、網を打ち、または張って漁をすること
- 風の神送りのシーンで、楽屋に控えている噺家も一緒に囃し立てていますが、楽屋まで参加する噺は初めて聴きました。
- 次集、第三十九集は「菊江佛壇」と「くやみ」。