レドモンド・オハンロン 「コンゴ・ジャーニー(上)(下)」

コンゴ・ジャーニー〈上〉  コンゴ・ジャーニー〈下〉

  • 書店に平積みされているのを見るまでは存在も知りませんでしたが、「現代最高のアフリカ旅行記」、「桁外れに面白い大旅行記」を始めとする数々の帯の惹句が抗い難い魅力を放っていました。曰く、
    • 赤道直下、コンゴ奥地の湖に幻の恐竜モケレ・ムベンベを探して−ピグミーの言い伝えに誘われて、英国人旅行記作家が全財産をなげうつ旅に出た。とんでもなく面白いアフリカ探検記。
    • コンゴ川上流の密林に、恐竜の棲む湖があるという−ピグミーの言い伝えと現地生物学者の証言に誘われて、英国人旅行記作家が禁断の秘境へと踏み込んでゆく。行く手を阻む、果てしない熱帯雨林、忍び寄るヒョウ、肉をむさぼるアリの大群、幾多の熱帯病、一発ぶっぱなす機会を窺っている兵士たち、三本指の鉤爪をもつ超自然的存在「サマレ」・・・・・。同行者は、理想家肌のアメリカ人動物学者と女たらしのコンゴ人生物学者。コンゴという国の底知れぬ闇と、一筋縄ではいかない逞しい人々。「バルザック的広がりをもつデラックスな旅行記」(The Independent)と評された、とんでもなく面白い大紀行!
    • ピグミーチンパンジーの性生活から、まじない師による「呪い」の方法まで。発見、恐怖、ユーモアに満ちた大旅行記
    • 「オハンロンの目が捕らえる得体の知れない暗さ、正気の縁のさらに向こうを覗きたいという恐いほどの衝動。それがこの本をとんでもない傑作にしている」−カズオ・イシグロ
    • 「嘘だろうと思って、でも本当かもしれないと思って読み返して、やっぱり嘘だろうと思う。だけどぜんぶ本当の、ものすごいアフリカ旅行記」−池澤夏樹
    • ニュートンキャプテン・クックダーウィン・・・・・とんでもないことを思いつき、やめられない。イギリス人の血が騒ぐとこうなる、という見本だ。紛れもない傑作」−養老孟司
    • 「恐竜の棲む秘密の湖めざし、全財産をはたいて丸木舟の旅に出る。同時代にこんな旅行記を読めるとは思ってもみなかった!」−いしいしんじ
  • 久々に読み始めたら止まらない感覚で、数ヶ月がかりでゴリゴリと読了した若桑みどり「クアトロ・ラガッツィ」とは段違いの圧倒的ドライヴ感。これぞアフリカという感じの目眩がするような貧困と不条理が全編に満ちていますが、本当にカラフルで面白いのはブラザビルからインプフォンドまでの第?部「川をさかのぼる」で、熱帯雨林入りして以降はいよいよ秘境に足を踏み入れている割には比較的地味。
  • 「本当かよ」とリアリティを疑う部分もあるのですが、巨大なイモムシを手にするマルセラン・アニャーニャ博士の写真などを見ると納得せざるを得ません。
  • キーはアメリカ人のバディ、ラリー・シャファー博士。軽妙な掛け合い(「あれをどう思った」〜「あれってどれだ。絶え間ない百万ボルト級カルチャーショックのどの部分だ」)に加え、ピグミーの惨状に涙する姿も魅力的(「もうわからん、レドソ。もうこれ以上我慢できるかわからん」)で、途中で帰国する場面には読んでいるこちらも寂しくなりました。ラリー・シャファーから見た旅の記録というのも副読本としてあれば、レドモンド・オハンロンの言動を客観的に捉えることができて面白いかもしれません。
  • 更には、最終章でマヌーが語り出すラリー博士との思い出がまた感動的。「いいか、このまま帰ったら、お前は一生自分を許せなくなるぞ。一月ぐらいはほっとして、よかったと思う。だが、あとは地獄だ。自分という人間の評価が下がる。その低評価を一生持ちつづけねばならん。だってな、大きなチャンスがそこに、目の前にあったのに、おまえはそれをつかまなかった」という教訓は汎用性が高いと思う。
  • 肝心のモケレ・ムベンベ探索がちっとも盛り上がらない(「おまえみたいなばかものを連れてくるためよ。うんと金を稼ぐためだ」)のもクールですが、後日談も何もないブッツリとした唐突すぎる幕切れも妙な余韻を残します。
  • 仰け反るような面白さ。文庫化される日は遠くなかろう、と思いましたが、原書の発売が1996年、邦訳の発売が2008年とのことで、今更興奮しているようでは遅いみたいです。