- コンピレーション・アルバム「ザ・ボサノヴァ」に触発されて購入。2段組、約500ページのミッチリとした大著ですが、写真も豊富で、意外にスムースに読了。
- 真偽の程は分かりませんが、様々な人物が織り成すボサノヴァの歴史を丹念に記録したアネクドータル・サーガ。
- シナトラ・ファルネイ・ファンクラブはナイトクラブではなく単なるファンクラブ(愛好家団体)である(パスケースの写真という物証あり)とか、「これが、リオがよこしたクソだ!」と言って「想い溢れて」のレコードを叩き割ったのはオズヴァルド・グルゾーニではなくアルヴァロ・ハモスである(本人の証言有り)とか、宮下英樹「センゴク」ばりに通説が覆されること多数(「だがこの通説には疑問が残る」)。
- ジョアン・ジルベルトが一時都落ちして音楽性を磨き上げる第7章「失われた自我を求めて」に痺れました。リオに戻って来たときにはバチーダを完成させていたという、いわばブラジル(ボサノヴァ)版クロスロード伝説。
- 奇行を繰り返す天才/野生児のジョアン・ジルベルトに対し、音楽的素養のある常識人アントニオ・カルロス・ジョビンという図式なんでしょうか。ジョアン・ジルベルトはギター奏法と歌唱法において革命的だった一方で殆ど作曲はしておらず、作曲において真に独創的だったのはアントニオ・カルロス・ジョビンだったというようにも読めるのですが。
- 小西康陽「マーシャル・マクルーハン広告代理店。ディスクガイド200枚。小西康陽」でも紹介されていたレニー・デイルのショー(「麻酔医が麻酔を施すように、簡単に聴衆を捻じ伏せ、リラックスさせる術を心得たエンターテイナー」)についても詳しく描かれています(「ベッコに登場したレニーは、まさに彼が初めて持ち込んだこの新しい習慣(つまり、リハーサル)ゆえ、センセーションを巻き起こした」)。
- 「彼(ジョアン・ジルベルト)とトムは、少なくとも一九七五年以来話していない」という一文に切なさが漂いますが、そのアントニオ・カルロス・ジョビンも1994年に亡くなってしまいました。ジョアン・ジルベルトの方は2003年、2004年、2006年と来日して中々お元気なようで何よりです。
- ルイ・カストロ「ボサノヴァの歴史外伝−パジャマを着た神様」やエレーナ・ジョビン「アントニオ・カルロス・ジョビン−ボサノヴァを創った男」にも関心がなくはないのですが、さすがに満腹。