「シテール島への船出」

テオ・アンゲロプロス全集 DVD-BOX II (ユリシーズの瞳/こうのとり、たちずさんで/シテール島の船出)

  • 「シテール島への船出(シテール島への巡礼)」というのはジャン・アントワーヌ・ヴァトーの絵画のタイトル。これにインスパイアされたクロード・ドビュッシーが作った曲が「喜びの島」。そして、シテール島(キティラ島)というのは、ギリシャ神話において、ヴィーナスが海の泡から誕生した後、西風ゼピュロスに運ばれて辿り着いたと考えられている島だそうです。
  • というタイトルから推測すると、老夫婦が32年の年月を越えて愛情を取り戻して辿り着く、ビターだけどスウィートなラストであると言えるのでしょうか。
  • トレードマークの長回しは控え目になっているようですが、曇天は十二分に堪能しました。
  • 映画監督とその愛人(女優)と花売りの老人が主人公になって映画内で映画を撮影するというメタ構造になっているのですが、ポストモダンの時代に呼応したものなのでしょうか。映画監督パートが存在する必要性があまり感じられませんが、女優の愛人(=妹)のヴーラをキーに無理矢理考えると、理想主義(精神性)/マテリアリズム(身体性)という世代間のギャップを示しているのでしょうか。それとも終盤の非現実感を和らげるための仕掛けなのでしょうか。
  • 青みがかった詩情溢れる映像に似つかわしくないスタンダード・サイズに違和感を覚えましたが、表現上の意図なのか、ギリシャならではの事情があるのか。
  • もう少し晦渋で訳の分からない映画を想像していたのですが、リリカルというかサウダーヂというか、切ない雰囲気には良い意味で裏切られました。次は「霧の中の風景」。