青柳いづみこ 「ドビュッシー−想念のエクトプラズム」

ドビュッシー―想念のエクトプラズム (中公文庫)

  • エッセイ「モノ書きピアニストはお尻が痛い」に続いて青柳いづみこの本格的著作。
  • 博士論文がベースということで、苦戦することを覚悟して読み始めましたが、文学者との関係性を中心に展開されるトリヴィアルな内容は予想以上の面白さ。
  • ただし、当然のように省略される文学史的背景ももう少し丁寧に解説してあると有難かったかもしれません。ランボーヴェルレーヌ事件すら寡聞にして初耳でした。
  • ドビュッシーをひき裂いていた音と言葉の問題」という、「モノ書きピアニストはお尻が痛い」でも触れられていたモチーフをより学術的、本格的にまとめたものというところですが、仏文学者の孫にしてピアニストである同著者によってのみ可能な世界であるのは間違いないでしょう。
  • それだけに「この書は、生前はほとんどすれちがいで終わったドビュッシー愛好家の亡祖父青柳瑞穂に、不肖の孫からの時空を越えたラヴ・レターとして捧げる」というあとがきにはグッときます。
  • 「私がここに描き出してみせるドビュッシー像は、多少類型化され、誇張された印象をもたれるかもしれない。一人の作曲家の生涯と作品について、人々が長い間理解してきたものをくつがえすためには、そのくらい思い切った手段が必要だと思うからだ」と著者も認めているとおり、「魅力的な薄暮の雰囲気」や「夢のように美しいドビュッシーピアノ曲の、優雅で洗練された世界」がスッパリ切り捨てられているのはしょうがないのかもしれませんが、残念といえば残念。