- 紙面に連載されたのが昭和2年、回想を付記したのが昭和30年頃で、今では存在しない店の名前もどんどん出て来ますが、こういうディテールしかないような聞き書きは、落語を聞くようなというか、日本酒を飲むような感覚で、読んでいて飽きません。
- 文藝春秋編「東京いい店うまい店」のジャンルごとの解説を参照し、八百善やら天新やらの位置付けを確認しつつ読むと実に楽しかったです。
- 一読後意外に印象的だったのは、増上寺大僧正道重信教の冷や飯。粗食なのに奇妙なシズル感があって、子母澤寛が真似してはまった(「私は道重さんの話をきいて一体本当かどうかと、試して見たのが病みつきで、三十年来飯は冷やに限るとしている」)のも分かる気がします。
- 新聞記者なら当たり前なのかもしれませんが、子母澤寛の社交性には一方ならず感心しました。
- 次は、吉田健一「私の食物誌」か、ジョエル・ロブション「ロブション自伝」。