- 書店で平積みされていたエキセントリックなタイトルにキャッチされ、何気なく手に取ったら意外に深く引き込まれてしまい、2段組700頁超のヴォリュームに「他にも色々と読みたいものが…」としばし逡巡したものの結局購入。UWF直撃世代の宿業でしょうか。
- 木村政彦の強さや破天荒さを語るときは絶好調なのですが、力道山戦後、筆致が急激に雑になっていく印象で、本作のコアとなるべき、後半生が本当に「長く苦しい」「煉獄の苦しみ」だったかどうかがあまり真に迫ってきません。岩釣兼生という愛弟子の育成にも成功し、天然型の天才として、割と屈託なく生きていたようにも思えます。
- ジュニア・セアウ、スコット・フィッツジェラルド、スライ・ストーン等々、読みながら色々な人を連想しましたが、一番近いのはキング・オリヴァーかもしれません(キング・オリヴァーはなぜデューク・エリントンになれなかったのか)。
- 「アメリカのデンバーで第一回UFCが開かれ、優勝したホイス・グレイシーが『われわれグレイシー一族にとってマサヒコ・キムラは特別な存在です』と発言し、この偉大なる名前が世界中の格闘家たちに知られるようになるわずか七ヶ月前、木村政彦はひっそりと逝った」、「あと一年、たった一年長生きしていれば、木村さんはヒーローになっていたと思いますよ。格闘技雑誌に特集が組まれただろうし、格闘技イベントのテレビ解説者として引っぱりだこだったでしょう」(太田章)という側面ををラストでフィーチャーすれば、グッと余韻が残ったのではないかという気もします。
- と後半の低調さに不満はやや残りますが、込められた情念の濃さに目眩がしました。レドモンド・オハンロン「コンゴ・ジャーニー以来、久々に一気呵成に読み通す面白さでした。