忌野清志郎 「ロックで独立する方法」

ロックで独立する方法

  • 2000〜2002年にクィック・ジャパンで連載されていたもの、を2009年に忌野清志郎が亡くなった直後に単行本にしたもの。
  • このインタビュアー(山崎浩一)は話を引き出すのは上手いのかもしれませんが、文章へのまとめ方に難がある気がします。口語としての口調にも違和感。
  • 連載時には字数制限があったかもしれませんが、それをそのまま刊行するというのは芸がないというよりは愛が足りないです。誤字・脱字も多いし、イージーな追悼ムード便乗商売という趣。
  • 6回のインタビューを出来るだけ生な形で起こして刊行してくれれば…と不満を覚えるほど、いつになく具体的で興味深いディテイルを多く孕んでいます。例えば、
    • 「『力がないんだ、世間のせいにしちゃいけない』って必ず誰かが言うことになってる。でも、それで簡単にこちらが納得しちゃったら、これはもう『世間』に合わせる方向に行くしかないじゃないか。(中略)そう簡単に反省しちゃいけないと思う、自分の両腕だけで食べいこうって人が」
    • 「でもさ、オレはね、一生に一度100万枚っていうのを売ってみたいんだ。音楽をなんにも変えないで、この感じで。(中略)『100万枚』っていう数字が成功なんじゃなくて、そんなふうに思えるってこと自体が、オレにとっての成功なんだと思うんだ」
    • 「『オレの収入は3億円で、リンコさん(小林和生)は3万円』とか、そんなムチャクチャなマンガを描いてたんだ。まあ、現実にプロになってみたら、オレもリンコさんもみんな月給3万円で『こんなはずじゃなかった』になるんだけど」
    • 「メンバー全員が対等で公平だったから、だれがベースを担当するか、もちろん例によってじゃんけんで決めた。そう、幸いなことに、負けたのはリンコさんだった。もしも自分が負けてたら?もちろん即座にバンドを脱退するつもりだった」
    • 「イヤな仕事を断るのは、簡単なようで難しいところがある。人と場合によっては『法外なギャラをふっかける』という常套手段もある。(中略)でも、これもうまくいくとは限らない。(井上)陽水がやった『お元気ですか〜』というクルマのCMは、実はその『失敗』例らしい」
    • 「例の『君が代』問題で揉めた時にも、昔からの友人で某プロダクションの社長のMに相談したんだけど、やっぱり『ポリドールはダメよ、脅かさなきゃダメなんだ、あの会社は!』って懇切丁寧なアドバイスをくれた」
    • 「たとえば古井戸の加奈崎さんなんかは、全部一人でブッキングして、自分のムスタングに乗って、ギター一本だけもって、全国の小さなライブハウスを回ってる。観客動員数がどれぐらいかは知らないが、それでも『赤字じゃないよ。儲かってるよ』って豪語してた」
    • 「そもそも音楽雑誌といっても、なぜかあまり音楽のことを訊いてくれないんだ。『ロッキング・オン』なんかでも、話題になるのは歌詞の内容ばっかりだったりね。音楽評論ていうより文芸評論みたいだ。(中略)渋谷陽一にも『死ぬほどロック聴いてるのに、なんで音楽のことを訊かないんだ?』ってよく文句言ってたんだけど、どうもなかなかわかってもらえない」
    • 「実は今年の3月に『社長交代劇』があったんだ。(中略)あれ(「冬の十字架」)がポリドールで『問題』になった時に、その対応についてオレと社長とで意見が真っ向から対立しちゃったんだ。オレはもちろん『ポリドールが出さないって言うならインディーズで出そうぜ』と主張した。一方、社長は『いや、ここはポリドールに譲歩して『君が代』抜きで出しておいた方が得策だ』と、ようするに丸く収めようとした」
    • 「たとえば憂歌団なんかも、ものすごく仲悪かったらしい。とてもそんなふうに見えなかっただろ。彼らの事務所も常に揉めてたし。最後はベースの花岡くんが社長になっちゃって」
    • 「で、当時、サカタの後釜のマネージャー・アライと二人で、長野までG2に会いに行った。つまりは『クビの宣告』なんだけどね。きっぱりと辞めてくれ、って言うために。オレが運転するクルマの中で、アライに言ったんだ。『これでG2が抜けて、事務所も潰れて、もしもRCも解散なんてことになったら、泉谷(しげる)に怒られっぞ〜、おまえ』って」
    • 「そのちょっと後、ブルーハーツの真島くんがウチに遊びにきて『バンド解散してうちの仕事独立したいんだけど』って相談を持ちかけられたことがあった。『ご高説お伺いしたい』って感じで。なんだか独立コンサルタントみたい。で、『独立もいいけど大変だぞぉ』って先輩面して脅かしてやった。でもちゃんと自分の知ってることは懇切丁寧に全部教えてあげたけど。そしたら後で『ブルーハーツの件は忌野が陰でそそのかしたことだった』みたいなことを言われたけどね」
  • RCの休業前後の回想もかなり赤裸々でドキドキしますが、「なんて言うか、確かに失恋したときの気分に似てたな。バンドに失恋したんだよ。『オレのせいじゃないのにな』っていう後ろ向きの気分と『オレのせいじゃないんだから』っていうサバサバした気分が、複雑に絡み合ってて。もちろんRCというバンドに愛着がなかったかと言えば、絶対ウソになるから。そんな気分が、ずっと一年ぐらい続いた」という発言には、読んでいるだけで切なくなります。
  • 改訂増補版/完全版の発売に期待したいです。出ないでしょうけど。