グレゴリー・デイヴィッド ロバーツ 「シャンタラム」

シャンタラム〈上〉 (新潮文庫)  シャンタラム〈中〉 (新潮文庫)  シャンタラム〈下〉 (新潮文庫)

  • 養老孟司毎日新聞の「2011年『この3冊』」で選出し、「めったにない本である。面白い本が読みたかったらこれをお勧めする。ノンフィクションとも小説ともつかず、しかもそんなことを問題にせずに人を惹きつける」と評価していたことから興味を持って購入。
  • 気取りが鼻につく文体で、哲学的考察も割に浅薄なんですが、インド実体験に基づくディテイルの面白さだけでも読ませます。例えば
    • 「“リン”というのはヒンディー語でどういう意味なんだ?」「“ペニス”という意味です!」「自分のことを“ミスター・ペニス”なんて紹介できると思ってるのか?冗談だろ?」
    • 「セント・ジョージ病院の近くの古いアパートメント・ビルに。中は病人や死にかけた人たちでいっぱいだった。わずかばかりの床のスペースをあてがわれ、みんなその上に横たわって死を待っていた。そこの所有者−聖人みたいな人だという評判だった−が歩き回って、人々に札をつけていた。それぞれが使える臓器をいくつ持っているか書かれた札だ。要するに、巨大な臓器銀行だったんだよ。人間でいっぱいの」
    • 「つまり、こういうことかい?大勢の人が行きたがっている大きな町の名前を標示しておいて、実際には、行きたい人が誰もいないような別の場所に行こうとしているわけ?」「それはね、人気のある場所に行こうとしてバスまでやってきた人たちを運転手は説得できるかもしれないからです。人気のない場所に行ってもいいと」
    • 「インドではアンダーパンツを穿いてお湯を浴びます」(中略)「そんなちっちゃなやつがパンツですか、リン?そんなのはアンダーパンツじゃありません。アンダー・アンダーパンツです。その上にオーヴァー・アンダーパンツを穿かなければいけません」
    • 「さあ、急ぎましょう−若者たちが何人か突堤で待っています。あなたが便をするところを見ようと」「なんだって?」「はい、そうなんです!彼らはあなたに夢中なんです。あなたのこと、映画に出てくるヒーローみたいに思ってて、どんなふうに便をするのか見たくてしかたがないんです」
  • 舞台がスラムを離れてしまうと、こういったディテイルの面白さはあまり見られなくなりますが、とにかく次から次にイヴェントが発生するので、飽きることなく読み進められます(更に進んでアフガニスタン編に入ると少し退屈な気はしましたが)。
  • 少し小馬鹿にしながら読んでいましたが、思わせぶりな引きかと思っていた伏線なども豪快かつ丹念に収斂しており、ラストまで辿り着いてみると意外にホロッとさせられました。つらつらと読み返してみても、これだけの人物が出てくるにも関わらず破綻は感じられず、文体や筋の運び方はあまり好みではありませんが、骨太な群像劇としてしっかりと楽しめました。
  • しかしこれ、グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツを故郷の村に連れて行ったタクシー・ドライヴァーは実在しているようですが、どこまで実体験なのかどうしても気になります。
  • 続編「ザ・マウンテン・シャドウ」は今年5月の刊行予定が遅れているようです。