荻原健太「レコード・コレクターズ増刊:ザ・ビーチ・ボーイズ・ディスク・ガイド」

レコード・コレクターズ増刊 ザ・ビーチ・ボーイズ・ディスク・ガイド 2012年 09月号 [雑誌]

  • ディスク・ガイド部分には関心がなかったので少し悩みましたが、山下達郎との対談にはどうしても抗い難く購入。対談だけで1800円の価値があるかどうかは分かりませんが、期待どおり、思い入れに溢れた内容でおおむね満足。
  • 「ぼくは『オールナイト・ニッポン』以来36年、ビーチ・ボーイズのことを唾飛ばして語ってきたけど。何をいちばん先に聞けばいいかと聞かれたときには必ず『シャット・ダウンVOL2』と『オール・サマー・ロング』、この2枚から始めろ、と。それを聞いていいなと思ったら前に遡って『サーファー・ガール』『リトル・デュース・クーペ』。後ろに年代を順にたどって『トゥデイ』『サマー・デイズ』。(中略)要するにこの6枚がビーチ・ボーイズの作品としてイメージ的にも音楽的にもベスト」という熱い一気語りに圧倒されましたが、ふと振り返ってみると1枚も聴いたことがありません。
  • それもまた「この十数年間は日本でもちょっと状況がいびつになってきたというか。まあ、いくらかぼくの責任もあったりするんだけど。とりわけ『ペット・サウンズ』から『スマイル』にかけての幻想っていうか、そういうものが肥大しすぎている」と語るところのいびつな状況の産物なんでしょう。
  • 66年の初来日について、「いや、見てない。友達は見に行ったんだけど、あまりにヘタだったって。あれも洋楽ファンを落胆させた一因だと思う」というのも中々他では聞けない証言。
  • 「『アンド・ユア・ドリーム・カムズ・トゥルー』なんて、せーのでやると必ず4小節ぐらいでつまづいて。何百回やったか覚えてない。でも、今CD化された『サマー・デイズ』を聞くと、ビーチ・ボーイズも1フレーズずつ録って、あとからつないでるんだよね」、「(『スマイリー・スマイル』は)コーラス以外でも、ビーチ・ボーイズっていう要素から離れて純粋に音楽的に考えたとき、色々と変な部分があって。たとえば、オルガンがまったくのノン・ヴィブラートなんだよ。ただのピヤーッていう音で全部いってる」というような具体的、技術的な話がもう少しあっても楽しかったように思います。
  • 「だけど不思議だったのは、とにかく誰もビーチ・ボーイズをいいと言ってくれない。ジェームス・ブラウンのことも言ってくれない。仕方ない、そういう音楽を好きな自分が変わってるんだっていう、殉教的ヒロイズムというか、そういうものもあったわけですよ」と語っていますが、確かにJBもポップ・ミュージック史上の役割を評価はされていても、深い個人的愛着をもって語る人は少ないかもしれません。
  • あの山下達郎が一番歌が上手いと評価しているのですから、いつの日かJBにも神格化的再評価の波が来て欲しいものです。
  • ディスク・ガイド部分は飛ばし読みですが想定の範囲内の内容。ノーコメント連発のアル・ジャーディンのインタヴューがある意味凄かった。