Vienna Konzerthaus Quartet, Leopold Wlach 「Mozart / Brahms: Clarinet Quintets」

モーツァルト&ブラームス:クラリネット五重奏曲

  • ウェストミンスターはジャケットにもセンスがあって、それがまた音のキャラクターともマッチしているところが魅力。59枚組で約1万5千円の室内楽のボックスセット(オーケストラ録音の第2集は65枚組で約1万8千円)があるらしく、食指を動かされます。
  • 以下手持ちのディスクガイドやライナーからメモ。
    • 「西欧音楽史クラリネット五重奏曲といえばほぼこの2曲ですべて、と言っていいほどの対の傑作。(中略)片やモーツァルトが当時の名手シュタードラーのために書いた最晩年の枯れた明るさが美しい作品で、片やブラームスが当時の名手ミュールフェルトのために書いたこちらも晩年の渋くも滋味あふれる作品。2曲の間はほぼ百年あるが、(中略)この楽器の優しく美しい歌への表現力と縦横無尽のテクニックが高次元で融合し、さらに作者晩年の透明感が見事に合体している点でも、奇跡的な出来。こうれはもうほとんど旧約聖書新約聖書と言っていい対の逸品である」(吉松隆「クラシックの自由時間:究極のCD200」)
    • モーツァルトブラームスクラリネット五重奏曲は、クラリネットを含む室内楽の2大名曲ともいうべき傑作である。それを史上最高のクラリネット奏者、レオポルトウラッハが吹いているとなれば、堪えられない魅力となるであろう。ウラッハの音色は暗く、あまり音量の変化を感じさせない点に特色があり、フォルテが少ないわりには音色感が統一されていて、その柔らかくふくよかな響きは他の楽器の音色と見事に溶け合う。この1951年のウィーン・コンツェルトハウスSQとの演奏でも、弦の響きがクラリネットの響きと良く溶け合い、なによりも時代の雰囲気がほのぼのと感じられて、これは何時の時代にも受け入れられる名盤中の名盤と言えよう」(幸松肇「クラシック不滅の名盤」)
    • 「しかし本命はなんといってもモーツァルトだ(中略)ウラッハのクラはあくまでしっとりと柔らかく、コンツェルトハウスはポルタメントを抑制して甘美になりすぎるのを防ぐ。だが、そんな両者がメヌエットの第2トリオで大きくテンポを落とし、ピッチカートを強く弾ませ、雄弁な対話を楽しむ。こんなロマンティックな味わいを、僕は後にも先にも耳にしたことがない。フィナーレの第3変奏も同じだ。この遅いテンポによってこそ、ヴィオラの哀しいメロディは生きるのである」(宇野功芳(ライナー))
    • 「1890年、弦楽五重奏曲作品111を完成した57歳のブラームスは、自分の創作力の減退を痛切に感じ、その年の秋には、持ち物を整理し遺書を書くほどになってしまった。ところが、翌91年3月、奇跡ともいえる出会いが作曲家に訪れる」「悲哀の底に潜む諦めと、それでもなおにじみ出る憧れの色彩を漂わせた、ブラームス晩年の傑作と言えるだろう」(室田尚子(ライナー)
    • 「一時は筆を折ったかにみえた最晩年のブラームスが、ミュールフェルトのクラリネットを聴いてから、ふたたび創作意欲を起こし、次ぎ次ぎに傑作を書いていった。それは生涯に一度もクラリネットを聴いたことのなかった人が、突然にその美しさに驚き、ツかれるように、のめりこんでいく、そんな姿を思わせる。もちろんブラームスは生涯に何千回とクラリネットを聴いたことがあるのに、なおその啓示を受けたのである。その驚きは音楽の中に息づいている。粘稠で陰影に富んだ旋律は、まさにエーラー・システムのクラリネットのために書かれたものである。」(石井宏)「いささか録音は古いがウィーンのレオポルオ・ウラッハの悠容迫らぬ芸術」(石井宏)、「ウラッハは独特の気品ある音色と音楽の運びで、情趣一杯のウィーン・コンツェルトハウスSQと素晴らしく融和してこれも絶品」(佐々木節夫)
    • ブラームスでは第4楽章がとくに絶妙だった。ウラッハのウインナ・クラリネットの音の豊かさ、スタッカートの美しさ、強弱のつけ方、間合いの良さ、いずれもため息が出るほどだったし、クヮルテットの方もこのフィナーレのヴァリエーションはソロが多いため、ウイーンの情感が手に取るように如実に伝わって来た」(宇野功芳(ライナー))
  • 演奏の印象から柔和な人柄を想像していたレオポルド・ウラッハの苛烈な言動に驚愕。野村三郎のライナーによれば「演奏家ウラッハが天才であったとするなら、その分教師ウラッハは仮借無い鬼のような先生であった。恐らく自分が弾ける所を弟子が弾けないと、何故弾けないのか彼は理解できなかったのであろう。それに彼はすぐかっとなる癇癪持ちでもあった。ある時ピアノとの合わせがうまくいかないと言って、20回も机を叩いたという。『20回もだよ』。プリンツは駄目を押すかのように繰り返した。『クーヴァッシュが怒られた時は、口の中にクラリネットを差し込まれて危うく死ぬところだった。すぐかっとなる質でね、腹が立ったら物を投げつけてそれが譜面台の向こう迄飛んでいった事もあったね』」とのこと。「口の中にクラリネットを差し込」むというのが何とも凄い。