- レオポルド・ウラッハによるモーツァルトのクラリネット協奏曲(1956年録音)とウィーン・コンツェルトハウスSQ他によるブラームスの弦楽六重奏曲(1951年録音)という両ウェストミンスター盤はクラシックの中ではかなり愛聴した盤であり、その流れで、いつか欲しいと思っていたのが本盤。
- ウェストミンスターはジャケットにもセンスがあって、それがまた音のキャラクターともマッチしているところが魅力。59枚組で約1万5千円の室内楽のボックスセット(オーケストラ録音の第2集は65枚組で約1万8千円)があるらしく、食指を動かされます。
- 以下手持ちのディスクガイドやライナーからメモ。
-
- 「モーツァルトとブラームスのクラリネット五重奏曲は、クラリネットを含む室内楽の2大名曲ともいうべき傑作である。それを史上最高のクラリネット奏者、レオポルト・ウラッハが吹いているとなれば、堪えられない魅力となるであろう。ウラッハの音色は暗く、あまり音量の変化を感じさせない点に特色があり、フォルテが少ないわりには音色感が統一されていて、その柔らかくふくよかな響きは他の楽器の音色と見事に溶け合う。この1951年のウィーン・コンツェルトハウスSQとの演奏でも、弦の響きがクラリネットの響きと良く溶け合い、なによりも時代の雰囲気がほのぼのと感じられて、これは何時の時代にも受け入れられる名盤中の名盤と言えよう」(幸松肇「クラシック不滅の名盤」)
-
- 「一時は筆を折ったかにみえた最晩年のブラームスが、ミュールフェルトのクラリネットを聴いてから、ふたたび創作意欲を起こし、次ぎ次ぎに傑作を書いていった。それは生涯に一度もクラリネットを聴いたことのなかった人が、突然にその美しさに驚き、ツかれるように、のめりこんでいく、そんな姿を思わせる。もちろんブラームスは生涯に何千回とクラリネットを聴いたことがあるのに、なおその啓示を受けたのである。その驚きは音楽の中に息づいている。粘稠で陰影に富んだ旋律は、まさにエーラー・システムのクラリネットのために書かれたものである。」(石井宏)「いささか録音は古いがウィーンのレオポルオ・ウラッハの悠容迫らぬ芸術」(石井宏)、「ウラッハは独特の気品ある音色と音楽の運びで、情趣一杯のウィーン・コンツェルトハウスSQと素晴らしく融和してこれも絶品」(佐々木節夫)
- 演奏の印象から柔和な人柄を想像していたレオポルド・ウラッハの苛烈な言動に驚愕。野村三郎のライナーによれば「演奏家ウラッハが天才であったとするなら、その分教師ウラッハは仮借無い鬼のような先生であった。恐らく自分が弾ける所を弟子が弾けないと、何故弾けないのか彼は理解できなかったのであろう。それに彼はすぐかっとなる癇癪持ちでもあった。ある時ピアノとの合わせがうまくいかないと言って、20回も机を叩いたという。『20回もだよ』。プリンツは駄目を押すかのように繰り返した。『クーヴァッシュが怒られた時は、口の中にクラリネットを差し込まれて危うく死ぬところだった。すぐかっとなる質でね、腹が立ったら物を投げつけてそれが譜面台の向こう迄飛んでいった事もあったね』」とのこと。「口の中にクラリネットを差し込」むというのが何とも凄い。