北野武「孤独」

余生 (ソフトバンク文庫)

  • 「全思考」を読んだ後では、この口語書き起こし調が一つの知恵というかある種の解決であるような気がします。以下、印象に残った発言内容をメモ。
    • 「飛び抜けてうまかったのは、やっぱり長嶋さんだったよね。要するに、阪神の吉田(義男)さんとかが、絵画で言う写実派だとしたら、長嶋さんはキュビズムとかさ、あっちまでいってるもん。単なる守備じゃないからね。デッサンの技術がはなからあって、そのうえでデフォルメした守備というかね。わざとスタート遅らしてたりするじゃん。ああいうの、すげえなあと思ったよね」
    • 「そんときに荷物の重さを計算してたのが中上健次で。やんないんだあいつ、荷役。ベルトコンベアのとこで、『えー、この飛行機は何トンだから、何トンまで載せられる』とか言ってやんの。で、こっちが必死なって積んでんだよ」
    • 「新宿はなんだったんだろうね。ハシカみたいなもんじゃないかなあ。あまりにも無知だったってのあるじゃない?無知だったからいたんだろうけど、いろんなことが分かってくると、一体なんだったんだろうと思うよね。俺、ジャズのレコードなんか一枚も持ってないしね。なんかこう、退廃的で貧乏くさいんだけど、なんか精神的にはちょっと高級な哲学みないなのを持ってる感じがあるじゃない?それが魅力だったんだけど、よく考えたらなにもなかった。しょせん酒飲みたかっただけだったのかなって感じがして。よく考えたら、ジャズ喫茶行って、あと麻雀打ってたって、なにやってんだか全然分かんないよね。賭け麻雀でサインやって、ほいで焼鳥屋で酒飲んで帰ってきてたって、どういう生活だったんだろうっていう。だから、思い入れはあんまりない。でもあの頃が青春だったよね」
    • 蒙古斑ってあんじゃない?あれは、おしめにしないで便所でちゃんとうんこしろって便所の神様が怒ってんだって、それで神様がケツをつねった痕なんだとか、そんなのばっか聞かされたけどさ」