- 「半島を出よ」に久々に圧倒的された村上龍(とはいえ読んだのはもう6年前!)。「歌うクジラ」(2010年)の文庫化を心待ちにしていたところ、あまり期待していなかった本作(2011年。連載(文學界)は2007〜2010年)の方が先に文庫に。
- 読み始めた瞬間に「歌うクジラ」も文庫化されるという間の悪さ。モチベーションという点ではこちらを先に着手しておいて良かった、と自分に言い聞かせつつ読みましたが、こういうものをこういうヴォリュームで悠然と展開されるとなかなかしんどいというのが率直な感想。
- 随所に披露される村上龍イズム/蘊蓄はいつものことですが、本線のストーリーが他愛もなさすぎて推進力が弱く、企図の不明さが腑に落ちません。21世紀の「風立ちぬ」、「智恵子抄」、あるいは「火宅の人」なのか。
- 起伏のないストーリーラインであればいつものディテイルのキレが期待されるところですが、「心はあなたのもとに」というキーフレーズからしてもう致命的に滑っていて、黒澤明「生きる」風味の古臭いラストも全く響きません。
- さざ波のような細かい感情の動きや思考の記述が丹念に積み上げられていますが、加齢により衒いが消えてきたのか、私小説的な気持ち悪い生臭さがあります。
- 「本当は人生がだいたい終わってしまった人」という言い方には背筋がヒヤッとしました。
- 電子書籍版では、縦書きの本文中に登場するメールのマークをタップするとメール画面がポップアップするという趣向だったとのこと。
- 実際の1型糖尿病患者というとシカゴ・ベアーズのQBジェイ・カトラーぐらいしか思い浮かばないので、病気の深刻さについての誤解を正すきっかけになったのが収穫。