新潮45編集部編 「凶悪−ある死刑囚の告発」

凶悪―ある死刑囚の告発 (新潮文庫)

  • 歌舞伎町の写真集に興味を持ち始めたあたりから、下世話な興味が止みがたく、貧困やアンダーワールド関係のノンフィクションが読みたくてしょうがありません。
  • 他方で、その手のものはあまり読んでもしょうがないという気もして、あまり積極的に掘っていなかったのですが、映画化の勢いに乗って平積みされた本作を店頭で見かけて抗いきれず、ついフラフラと購入。
  • 長々と想像を記述しておいて、「私と面会後の後藤の心象とは、こうしたものであっただろう」というような、センスのない不必要な描写が散見され、激しく興を削ぎます。キリキリにドライに記述した方が良かったと思います。
  • 犯人および犯行のあらましが冒頭で明らかになる倒叙型の構造になっている訳ですが、手に汗握る取材過程や目を背けたくなるような犯行のディテイル、スタイルのある読ませる文体等々が欠けており、冒頭(というよりは本書を購入する時点)で知ったアウトライン以上のものはほとんど得られないため、読み進めさせる駆動力が足りないように思います。
  • 特に気になったのは、わざわざ括弧付きで記述される後藤良次の口調にリアリティーがないこと。あれほど無軌道かつ凶悪な「大前田の殺し屋」が、いかに死刑囚になったとはいえ、「ここは、ぜひとも捜査当局に奮闘していただかなければなりません。“先生”という危険因子を社会に残すことは、将来にわたって爆弾を抱え込むことになる。だから、警察は強制捜査権をもっているのだから、それを最大限駆使して、全力を尽くしてもらいたいのです」などという言い方はしなだろうという気がして、その度に冷や水を浴びせられる思いがします。
  • 巻末の文庫版書き下ろしまで来ると、「先生」の実名(三上静男)が明かされる他、写真も掲載されていて、ググッと迫るものが出てきます。ボーダーのポロシャツを着て住宅街を歩いている様子の写真で、あまりに普通なおじさんの風貌はなかなか衝撃的。
  • 端的には、インターネットで得られる情報で十分という気がしました。