村上春樹「村上ラヂオ2−おおきなかぶ、むずかしいアボカド」

村上ラヂオ2: おおきなかぶ、むずかしいアボカド (新潮文庫)

  • 前作は薄味であまり記憶に残っていないのですが、10年ぶりにアンアンで再開された連載をまとめたもの(の前半)。
  • マーヴィン・ゲイとタミー・テレルの『ユア・プレシャス・ラヴ』のサビの部分」について、「聴いたことがある人とない人では愛の感動についての認識鮮度がつまみひとつぶんくらいちがっているはず」と語っていて、聴き直してみましたが、「Oh heaven must have sent you from above」のところそんなに感動するかなという感想。マーヴィン・ゲイ好きとしては人後に落ちないつもりだったのですが。
  • サウンド・オブ・サイレンス」の歌い出しが「やあ暗闇、僕の旧友」というのは知りませんでしたが格好良い。車内灯が消えた頃の銀座線で口ずさんでいたというのも洒落ています。
  • 「三十歳を過ぎたやつら」(「『それでも愛がすべてだ』とか、きっぱり言い切っちゃえるといいんだけどね」)、「こっちのドアから入ってきて」(「世間一般の人にとっての二十代がどのようなものなのか、僕にはうまくイメージがつかめないでいる」)、「ベネチア小泉今日子」(「僕の書く文章がこの世界のどこかで、それと同じような役目を果たしてくれているといいんだけどと思います。心からそう思う」)など、書きようによってはシリアスな題材をサラッとクールにまとめていて、初期エッセイの持ち味が帰ってきたような感もあります。
  • 単純にエンタテイメントとして面白かったのは「あざらしのくちづけ」。生のあざらしオイルがどれくらい臭いかの比喩が笑える。
  • 「村上ラジオ3−サラダ好きのライオン」という第3作もあるようで、文庫化を楽しみに待ちたい。