- 前作は薄味であまり記憶に残っていないのですが、10年ぶりにアンアンで再開された連載をまとめたもの(の前半)。
- 最初はやっぱりちょっと薄いかなと思っていたのですが、ナイキ本社のジョギング・コースの話あたりからグッと面白くなってきました。その他、紹介されている興味深いエピソードは以下のとおり。
- ドール社の顎足つきでハワイに滞在しながら、頼まれたパイナップルの絵を描かなかったジョージア・オキーフ
- ジュール・メグレ警部シリーズの作家ジョルジュ・シムノンの1万人斬り伝説
- 「今昔物語」にある大きな蕪のシュールな話
- ロバート・オッペンハイマーの天才とハリー・トルーマンの切り返し(「私の両手は血で濡れています」「これで拭きたまえ」)
- アンタール・ドラティー指揮、ロンドン交響楽団「スキタイ組曲」(1957年)の録音の素晴らしさ
- プーシキン「その一発」とサクランボ
- 「マーヴィン・ゲイとタミー・テレルの『ユア・プレシャス・ラヴ』のサビの部分」について、「聴いたことがある人とない人では愛の感動についての認識鮮度がつまみひとつぶんくらいちがっているはず」と語っていて、聴き直してみましたが、「Oh heaven must have sent you from above」のところそんなに感動するかなという感想。マーヴィン・ゲイ好きとしては人後に落ちないつもりだったのですが。
- 「サウンド・オブ・サイレンス」の歌い出しが「やあ暗闇、僕の旧友」というのは知りませんでしたが格好良い。車内灯が消えた頃の銀座線で口ずさんでいたというのも洒落ています。
- 「三十歳を過ぎたやつら」(「『それでも愛がすべてだ』とか、きっぱり言い切っちゃえるといいんだけどね」)、「こっちのドアから入ってきて」(「世間一般の人にとっての二十代がどのようなものなのか、僕にはうまくイメージがつかめないでいる」)、「ベネチアの小泉今日子」(「僕の書く文章がこの世界のどこかで、それと同じような役目を果たしてくれているといいんだけどと思います。心からそう思う」)など、書きようによってはシリアスな題材をサラッとクールにまとめていて、初期エッセイの持ち味が帰ってきたような感もあります。
- 「村上ラジオ3−サラダ好きのライオン」という第3作もあるようで、文庫化を楽しみに待ちたい。