猪瀬直樹 「昭和16年夏の敗戦」

昭和16年夏の敗戦 (中公文庫)

  • 猪瀬直樹という人の評価は別にしてもこれは名著という評判をどこかで目にして購入しておいたもの。
  • 「三十代前半の若手エリートが集められ、アメリカと戦った場合のシミュレーションを重ね、そこで出された結論は、実際の太平洋戦争での経過とほとんど同じだった」というのは事実としては面白いけれども、文章も生硬で読み物としてはグルーヴに欠ける気がします。司馬遼太郎の融通無碍な出し引きにと比べるものでもありませんが。
  • デイヴィッド・ハルバースタム「ベスト&ブライテスト」と違って、こちらの「最良にして最も聡明な逸材」はほぼ正解に辿り着いていた訳ですが、国家運営に責任のある立場にはなかった訳で、「わかっていても、“勢い”に押し流されていくしかない。なぜか」という考察が、「“事実”を畏怖することと正反対の立場が、政治である。政治は目的(観念)をかかえている。目的のために、“事実”が従属させられる」という一文ぐらいしか見当たらないのは、厚みに欠け、決定的に不満が残ります。
  • むしろ、生真面目な東條英機への大命降下の流れに引き込まれるものがありました。