伊丹十三「ぼくの伯父さん」

ぼくの伯父さん 単行本未収録エッセイ集

  • 11月の頭に事件があって、全く読めない時期が続きましたが、軽い読み物からリハビリ。
  • 前々からチェックしていた伊丹十三の単行本未収録エッセイ集(一部は未発表)。文庫にならないかなと待っていましたが、独立系の小出版社につき期待できないというレヴューをみて購入。単行本未収録を謳いながら、「考える人」編集部編「伊丹十三の本」との重複はあるようですが、いずれにせよ未読。
  • つらつらと気楽に読みましたが、印象に残っているのは、判断責任がないからこそ自由に発想・提案できるのではないかという「判断の人」。
  • 個人的なベストは「最高級品」。パテック・フィリップだけが最高級時計ではない、としてベンソンの懐中時計に言及、志賀直哉が所有していたという父・伊丹万作の文章を紹介しつつ、鎖はロンドンのポルト・ベラ・ロード辺りで探せという蘊蓄、重しとして祖父がパリのオテル・クリヨンで盗んできた二十八号室の鍵と洒落たセンスを披露し、ラストで父子代々受け継げるのはベンソンの懐中時計自体ではなくそれを羨む気持ち(文化資本)と落とす。伊丹十三ならではの至芸が短い文章に結晶。