柳家小さん 「五代目柳家小さん落語傑作選 其の三」

五代目柳家小さん 落語傑作選 其の三 [DVD]    五代目 柳家小さん 落語傑作選 全集 [DVD]

  • 「五代目柳家小さん落語傑作選」全集DVDボックス。其の三は「道具屋」と「試し酒」。例によって引用は京須偕充
  • 「道具屋」(1979年)は「与太郎噺の代表格で、どこででも切れるから、前座噺としても重宝され、よく演じられる。木刀が見破れないはずもなく、理屈を言えば妙なところは随所にあるが、与太郎のような人間を組み込んだ社会の、一種のユートピアぶりをほのぼのと笑って楽しむ噺」で、「柳家小さん与太郎描写がいちばん素朴だ。ことさらに弱者を道化にするあざとさがないから、すこぶる今日的である」とのこと。
  • 一陽来復=陰暦11月、または、冬至=冬が去り春が来ること、新年が来ること=悪いことが続いたあと、ようやく物事がよい方に向かうこと
  • 天道干し=日向ぼっこしている間に売れるという露天商の通称
  • 万年青(おもと)=古典園芸植物の一種
  • 桂枝雀版(「家一軒盗まれた」)を見てしまうと、なんとも淡々とした口演ですが、それ故に尽きせない滋味があるとでも言うのでしょうか。
  • 「試し酒」(1980年)は、「大正・昭和前半の落語速記家・研究家である今村信雄の代表作」で、「酒豪ぶり、一升ごとの酔態の変化などを克明に表す演技力が必要で、口とギャグだけ達者な芸ではこういう噺はまったく手に負えない。(中略)可楽は終戦の年に亡くなっているが、小さんは戦争に出征する前に可楽の直伝を受けた」とのこと。
  • 盃の解説が興味深い。
    • 「太郎盃」、「二郎盃」=「貝殻でできたもん」とのことですが、何なんでしょうか、よく分かりません。
    • 「浮瀬(うかむせ)」=江戸時代大阪を代表する料亭「浮瀬」が所蔵していたアワビの大盃(盃の名称が店名になった)。これを飲み干した人は名誉として「暢酣帳」に名前を記載した=「その気になれば、飲む気ンなって飲めば飲める」
    • 「可盃(べくはい)」=下に高台が付いていないすり鉢状の小ぶりの盃。盃を置くためには、注がれた酒を飲み干さないといけない(噺の中では小さな孔があいている盃との説明)
    • 「武蔵野」=武蔵野の原は広い→野が見尽くせない→飲み尽くせない
  • 儀狄=中国、夏の初めて酒を造ったという伝説上の人物=転じて酒の異称
  • 三杯目の都々逸披露も面白い。
    • 「お酒飲む人花なら蕾、今日も咲け咲け明日も咲け(酒)」
    • 「婀娜な立膝鬢かき上げて、忘れしゃんすな今のこと」
    • 「水に油を落とせば開く、落としてつぼまる尻の穴」
    • 「酒は米の水、水戸様は丸に水、意見するやつァ向こう見ず」
  • 四杯目の飲み方にも流儀があるそうで、「可楽は五杯全部を久造が飲む描写で表現したそうだが、三代目桂三木助は四杯目を客と主人の対話による間接描写で表した」とのこと。三木助と親交の深かった柳家小さん三木助流。
  • 「五杯目を飲み干して、盃に見立てた扇子をパッと除けた時、全盛期の柳家小さんは本当に五升飲んだような虚ろに据わった眼と赤熟した顔を見せた。おそらく、五杯目の仕草のほとんどの間、呼吸をとめていたのだろう」との様子が画面ではしかとは確認できないのですが、「これはおそらく実演ならではなの醍醐味で、ビデオを見てもどこまで味わえるのか疑問に思う」とのことなので、無理からぬことなのかもしれません。