松井今朝子 「今朝子の晩ごはん−忙中馬あり篇」

今朝子の晩ごはん―忙中馬あり篇 (ポプラ文庫)

  • 松井今朝子の著作はまったく読んだことはありませんが、NHK「知る楽・探究この世界/極付歌舞伎謎解」で興味を持っていたところ、本作を書店を見かけて(第3弾らしいのですが)購入。
  • 「肝腎の『助六』は揚巻役の福助が、化粧を似せているのか亡き歌右衛門を彷彿とさせる一瞬もあって、まずまずの出来だったが、最初の花道の出がなんとも小さいのは、酔態をリアルに見せすぎるためだろう。続く『悪態の初音』(揚巻が啖呵を切る場面)もこれまたリアルに過ぎて、わかりやすい分、風格の大きさに欠けるのは如何ともしがたい。下手でもいいからもっと歌舞伎座の舞台にふさわしい大きな役者になりなさい、と、亡き伯父様なら仰言るのではないか」といった玄人な観劇評がもっとあるかと思ったのですが、意外に少なかった。
  • 乗馬のような外出する趣味をなにか持ちたいという気分になりました。
  • 「ちなみに私が東京に来て何に一番驚いたかというと、この風の強さである」というのは非常に同感。いまだに年に何回か恐怖心を覚えます。
  • 「環境問題を考えると、アメリカ人の消費マインドを冷ます必要は絶対にあるのだけれど、もし不況のさなかに冷えてしまって、冷え切ったままピューリタン的まじめ路線に突っ走られると、アメリカ人の貪欲な消費をあてにして回っている世界各国の、むろん日本の経済も一気にガタガタになるに違いない」という推察は、2008年4月時点としては(北京五輪後の失速は有る程度予測されていたとはいえ)なかなかの慧眼と言えるのではないでしょうか。
  • 「『馬は某国との関係と同じでやっぱり“対話と圧力”に尽きますよね』」 というものの言い方に非常に深く納得してしまいました。
  • 船場吉兆」の不祥事に関連して紹介されていた、「料理屋はとても『冥加が悪い』商売だと私は父から教わったものだ。現代語に翻訳するのは難しいが、大変にもったいないことをするので畏れ多い商売だというような意味である」、「『川上』ではよその店だとひと月かかって使うような大量の昆布と鰹を一日に使って毎朝出汁を取り、それを大きな瓶に入れて一日で使い切るようにしているが、松崎氏が見習い修行中に使い終わった瓶を洗う仕事をさせられていて、ある晩うっかり別の掃除に使うタワシでその瓶を洗って気づかずにおり、翌朝また取った出汁をそこに入れて、当時の煮炊きの責任者だった板調が主人に味見を求めたところ、『今日はなんかおかしな臭いがするなあ。全部捨ててしまえ』と即座に命じたそうで、松崎氏は自分がタワシを間違えたことで店に大損をかけたとして、一生忘れられない怖い経験として心に残ったそうである」というエピソードが非常に印象的でした。
  • 最初から最後まで不思議なぐらい安定したトーンに微妙な違和感を覚えました。女性というのは一般に精神的なアップダウンが少ないのか、それともこの人個人の特性なのか、はたまたプロの文筆家としての習性なのか。
  • 過去ログを読めば事足りるような気もしましたが、取り敢えずシリーズ第1弾、第2弾も購入してみました。