松井今朝子 「今朝子の晩ごはん」

今朝子の晩ごはん (ポプラ文庫)

  • 第3弾「忙中馬あり篇」から遡って第1弾。写真付きの過去ログが無料で読めるのにわざわざ書籍を購入するなんて、という気もしますが、やはりモニターで読める量には限界があります。
  • 「動物は春に発情するのが多いけれど、鹿の発情が秋だというのは百人一首の『奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の声聞く時ぞ秋は悲しき』で誰でも知っているように思っていたが」とのことですが、発情期の鳴き声のことだとは全然知りませんでした。
  • 前進座(「『新門辰五郎』は中村梅雀主演。この人はTVで見るとそれほど似ているようには思わないが、舞台だと親父のクローンみたいである。さほど恵まれた容姿ではないけれど、それを補って余りある口跡の良さと芝居の巧さで人気役者たり得ている点は、翫右衛門以来三代続いた名血の証であり、そもそも歌舞伎界の門閥世襲を打ち破ろうとして結成されたこの劇団に、松竹でもめったにないようなこうした名血が流れていること自体なんとも皮肉としかいいようがない」)やコクーン歌舞伎(「コクーン歌舞伎の、というよりも、中村勘三郎串田和美のコンビがもたらした最大の功績は、歌舞伎を戯曲本位に上演することによって、シェイクスピアなみの現代性を思いのほか引き出し得た点にあり、中でも二00一年に初演された『三人吉三』は出色の舞台だった」)の解説は、さすが玄人というのか見巧者というのか、詳細は良く分からないなりに興味深い。
  • 「そもそも一九八七年の中曾根裁定で竹下じゃなくこの人が先に総理になっていれば、以後のあんなメチャメチャなバブルは回避できたし、国民が今よりもう少しはお利口でいられたような気がするくらいだ」という宮沢喜一元首相についての意見には賛同しかねます。
  • ただの日記を読んで何が面白いのか説明が難しいですが、先日の6月17日の日記の締めの一言「とにかく欲しいのは時間です。生きてるあいだに色んなものを見たり聞いたり読んだり書いたり喋ったり、馬に乗ったり、カメに触れ合ったりする時間がもっともっと欲しいのであります」という貪欲な姿勢が徹底されていて、プロの文章力ともあいまって、飽きずに読むことができます。
  • そういう意味では立川 直樹/森永 博志「シャングリラの予言」の読後感に近いかもしれません。