- 「誘拐」、「我、拗ね者として生涯を閉ず(上)(下)」に続いて本田靖春。第6回講談社ノンフィクション賞受賞作。
- あっちに行ったりこっちに寄ったりしながらウネウネと進行していくため、人物の相関関係や経緯がスムースに理解できず、もう少し構成にメリハリが欲しかったところ。ヴォリューム的にも10〜15%ぐらい枝葉を刈り込むとスッキリしたかもしれません。昔の文庫なので活字が小さいのも苦しい。
- というようないくつかの障壁は感じましたが、戦後の日本政界、検察内部の権力闘争、立松和博の来歴と人となり等々から、父は判事として、息子は新聞記者として、親子二代で政争の犠牲になるという尋常ならざる悲劇を重層的に描き出す腕力はさすが本田靖春。2回読むぐらいで丁度良いのかも知れません。
- 最後の最後で描写される個人的な交流(「立松さん、一緒に社を辞めましょうよ」)には涙腺が弛みます。梅原猛がシテとワキと解説していましたが、通常のノンフィクションの要素に加えて、著者が事件当事者の近しい観察者でもあったという点が本書を名著たらしめていると言えるかもしれません(スコット・フィッツジェラルド「グレート・ギャツビー」的構造)。
- 本筋から外れた感想ではありますが、魑魅魍魎が跋扈する戦後の政財官界のワイルドな有り様は、総理の漢字の読み間違いをメデイアがあげつらうようなさもしさが充満する今日に比べると、ある意味で大らかで骨太な良い時代であったという羨望を覚えます。