小林信彦 「おかしな男−渥美清」

おかしな男 渥美清 (新潮文庫)

  • 特にどうというきっかけもなく、久々に「男はつらいよ」が観たい気持ちが湧き上がり、関連情報を漁っていたところ、本作の存在を発見。
  • 渥美清の死後に一方的に思い出を公表し、本人が見せたくなかったプライヴェートな部分を衆目に晒すやり方には不快感を感じないわけでもないのですが、渥美清との実際に交友を持った著者による貴重な一次情報に基づく記述なので、圧倒的に生々しくて止まらない面白さ(覗き見感覚)。
  • 男はつらいよ」が代表作となるまでの、ギラギラとした野心に満ちた渥美清のダーク・サイド(映画第一作の時点で41歳)。渥美清もまだ若く、プライドと焦燥感の狭間でキャリアを模索する姿が非常に興味深い。
  • 若い頃は悪くて、肺結核のため片肺で、人嫌いで、情報魔で、家族の住まいとは別に代官山に勉強部屋を持っていて、自宅の手前でタクシーを降りてしまうような狷介な人物が、国民的人気者・寅さんを演じていたという、幸福なのか不幸なのか判然としない事実。
  • 渥美清小林信彦との関係が、「部屋に上げる数少ない知人」ではあるものの無二の親友ということもなく、付かず離れずの微妙な距離感であったためか、全体的にクールな記述となっています。
  • 当方には何の才能も知名度もありませんが、プライヴェートな事柄を極力隠したい気持ちや、家族と別に勉強部屋を持ちたい気持ちには強い共感を禁じ得ません。
  • 情報の面白さで読ませますが、中野翠が解説で「クローズアップとロングショットの切り換えの仕方、織り混ぜ方に唸る」と述べているような巧さは感じません。
  • 菊地成孔の紹介を読んで以来気になっていた「拝啓天皇陛下様」が観たい。NHK−BSの「男はつらいよ」の全作品放送も録画しておけば良かった(DVDセットはアマゾンで約12万円)。