Modern Jazz Quartet 「Fontessa」

フォンテッサ(SHM-CD)

  • 小西康陽マーシャル・マクルーハン広告代理店。ディスクガイド200枚。小西康陽」から。 「対位法を用いた、なんと華やかなブルースのヴァリエイション。宮廷音楽のようにブルースを演奏しよう、というのは、たとえ悪ふざけにしてもまったく素晴らしい閃きであった。彼らでさえ演奏はときにファンキーに傾くのだが、それでもけっして声高になることはない。むしろいつも、如何に小さな音量で演奏出来るか、腕試しをしているような、つまり臍曲がりと旋毛曲がりの4人組」という相変わらず冴えてる紹介文。
  • 続いて紹介される「愛らしい響きの題名と愛らしいアルバム・カヴァーを持つ本作品は、若い女性へのプレゼントとしては最良のジャズ・アルバム。『ティファニーのテーブルマナー』のように永遠のベストセラー商品であるべきだ。我が家には封を切っていないCDを常に1ダース用意してある。カジノで使うトランプのように」というのと似たような話が「村上朝日堂はいかにして鍛えられたか」に確かあったと思い出し、文庫版を改めて購入して確認。
  • 曰く「名編集者として知られるマックスウェル・パーキンズにとってのそれは、トルストイの『戦争と平和』だった。彼は何度も何度もその小説を読み返し、そこから人生の滋養と勇気とヒントを引き出した。オフィスにいつも何冊か『戦争と平和』を置いておいて、誰かが来るとそれをプレゼントした。フィッツジェラルドヘミングウェイもトマス・ウルフも、みんな一冊ずつもらった」、「似た話だが、僕が昔『ニューヨーカー』の編集者のオフィスを訪れたとき、机のうしろの本棚に谷崎潤一郎の『細雪』の英訳本が半ダースくらい並べてあるのが目についた。僕は彼に『どうして同じ本がそんなに何冊もあるんですか?』と質問してみた。『ここを訪れるみんなに、その質問をさせるためだよ』、彼はにっこり笑って言った。『そうすれば、それがどんなに素晴らしい本かを説明することができる。そして興味を持った人には、一冊プレゼントすることができる。君も欲しい?』」。
  • 村上春樹といえば、和田誠村上春樹「ポートレイト・イン・ジャズ2」におけるMJQの記述も非常に面白かった(「逆説的な言い方になるが、MJQのユニットとしての強力さは、そのユニットとしての破綻性の中にある」)。
  • 同じ文章の中で、MJQのシックなスーツ・スタイルを「『黒人ミュージシャンにだってちゃんと知性はあるんだ。我々はアンダードッグ(落ちこぼれ)じゃないんだ。我々は相応しい敬意を求めているんだ』というきっぱりとした、そして切実なメッセージが、そこにはこめられていた」と評していますが、これが菊地成孔にかかると、ジョン・ルイスのタキシードはサン・ラの土星人コスチュームと同じ(クラシック・マニアのコスプレ)ということになるようで、ミュージシャンの服装一つとっても色んな解釈があるものです。
  • ジョン・ルイスによる解説によると、「フォンテッサ」は、コンメディア・デッラルテ(即興仮面演劇の一形態。16世紀中頃にイタリア北部で生まれ、主に16世紀頃から18世紀頃にかけてヨーロッパで流行)にインスパイアされた組曲ヴィブラフォンが即興を展開する1曲目がハーレクイン、ピアノを中心とする2曲目がピエロ、ドラムをフィーチャーした3曲目がパンタローネ、三音からなるメイン・モチーフがコロンビーナをそれぞれ表しているそう。ジャケットに描かれている4人の人物がコンメディア・デッラルテのストック・キャラクターで、おそらく左からコロンビーナ、ピエロ、ハーレクイン、パンタローネだと思います。
  • 結局「フォンテッサ」というのが人名なのか地名なのか、はたまた別の何かを意味するのか、よく分かりませんでした。
  • という各種の情報のレヴューは中々楽しかったのですが、音源そのものは全然印象が焦点を結ばず、ぼやけたまま。
  • ルディ・バンゲルダーのスタジオでの録音の素晴らしさが強調されていますが、ベースとドラムが妙に引っ込んでいるのも気になります。
  • 気に入ったら「コンコルド」や「ジャンゴ」も聴いてみるつもりでいたのですが残念。少し寝かせて脳内での熟成を待ちます。