- 菊地成孔「ユングのサウンドトラック−菊地成孔の映画と映画音楽の本」が届いたので早く読みたいのですが、これをテコとして、放置気味だった映画関係書籍をやっつけることに。まずは淀川長治・蓮實重彦・山田宏一による鼎談。
- 実態は、鼎談というよりも、淀川長治の話を引き出す会とでもいった趣。2人に乗せられ、「僕は男が好きだから」、「歌ってもいい?」、「カンニングだよ、そんなの、まあー(笑)」等々淀川長治絶好調。知らない作品だろうと何だろうととにかく淀川節が楽しくて2冊分飽きずに読めます。
- 最高に可笑しかったのがデボラ・カー大論争。蓮實重彦の「デボラ・カーってどうしてあんな馬鹿みたいな顔してんでしょうね」の一言から、デボラ・カーが馬鹿みたいな顔かどうかについて延々と論争が繰り広げられます。
- 最終章「貴族の肖像−ルキノ・ヴィスコンティの映画の美術」が読み応えがあったのですが、なかでも「ヨーロッパには、二人犯罪者いるのよ、ロッセリーニとゴダール。この二人が映画を潰してしもうたの。この二人を、私、一生恨んでんの、嫌いで、嫌いで(笑)。あんな奴がいるから、映画は誰でもつくれるみたいになちゃったのよ(笑)」というヴィスコンティ愛からくる糾弾には胸が熱くなりました。思い余って「あんな貧乏ったらしいロッセリーニが出て来て、イングリッド・バーグマンの馬鹿がそこへ行ったでしょう(笑)。だからもうろくでもないことになったの、イタリアがね(笑)」とまで言っておられます。
- 「でもな、この座談会のおかげやもんな。これがなかったら、道で蓮實さんに会うてもね、ぼくはよけてしまうもんな、どっかに隠れたりしてなあ(笑)。ぼくね、その昔、蓮實さんのこと、おっかなくておっかなくて、もの言えなかったでしょう(笑)。ところが、いろいろあって、お話しできるようになったでしょう。それが活字になったでしょう。こんなえらい、立派な先生と知り合いになれてよかった、よかった、この年になってなあ」と言うとおり、随所に見られる、蓮實重彦との緊張感を湛えながら腹の探り合いをするやりとりも楽しかった。
- 全く馴染みのない情報が溢れかえっていますが(興味を持ったからといっておいそれとは観られないような作品が多数言及されています)、それが反って楽しくて面白いのはやはり会話形式だからでしょうか。立川直樹・森永博志「クラブ・シャングリラの予言」や村上龍・坂本龍一「EV.Cafe−超進化論」と同じようなノリで読めます。
- 「サスペンス」の章末に掲載されている各人のおすすめを眺めていたところ、ヒッチコック作品を何らかの形でまとめて観たいと思ったのですが、現在入手可能で魅力的なDVDのセットが見つからず、善後策を検討中。