サマセット・モーム 「サナトリウム・五十女」

モーム傑作選〈第3巻〉サナトリウム,五十女 (1956年)

  • 激しく黄ばんだ紙に「汽鑵車」、「聯想」といった旧字が踊っており、こんな本いつどこで買ったかな、という感じ。英宝社英米名作ライブラリーというシリーズ。
  • 奥付は昭和58年の第14刷(昭和31年初版)。「本巻に収められた作品は、短編集としては、もっとも新しい『環境の産物』Creatures of Circumstances(1947)から、約その三分の一を選んだもの」ということらしいです。
  • 仮象と真実」の意外な展開にはモームらしさを感じましたが、その他については、モーム本人が「下手にチェホフなどをかじったものだから、なんとなしにはじまって、なんとはなしに結末もなしに終る小説を書くのが、当今作家の流行になってしまった」、「話をするということは、私にとって楽しみだった。もし話のために話をするということが、インテリ諸氏のお気に召さぬとならば、私にとってはまことに不運といわなければならぬが、私は、勇気をもって私の不運に堪えるつもりだ」と言う程には、ストーリーとしても面白くないように思われました。
  • サナトリウム」はアシェンデン(モームの分身)が主人公だけあって、実体験に基づくサナトリウムの描写が生き生きとしていますが、予想外にヒューマンな結末に拍子抜けしました。他人の結婚程度のことでガラリと気持ちの在り方が変わってしまうということをシニカルに描いているとも言えるのかもしれません。