椎名誠 「新宿遊牧民」

新宿遊牧民 (講談社文庫)

  • 出張の隙間時間に立ち寄った書店で何となく購入。「哀愁の町に霧が降るのだ」からの流れは「新橋烏森口青春編」、「銀座のカラス」、「本の雑誌血風録」、「新宿熱風どかどか団」と続いているようですが、内容的にはともかくスタイル上の統一感の無さが受け入れ難く、いつ頃からかフォローするのを放棄していたところ。
  • 二十歳前後の時期を扱った「哀愁の町に霧が降るのだ」の瑞々しさは求めるべくもありませんが、まとまりやドライブ力が致命的に欠けており、思い浮かぶままに書き散らかす天然型のスタイルのまま年をとるということの切なさが強く感じられました。
  • そういう意味では、「『そんなことをやるよりも作家としてもっとまとまった仕事をやったほうがいいんじゃないかな』と彼は言った。作家として一番力を発揮するはずの四十代のはじめである。つまりそういう正念場にもっときちんとした小説を書きなよ、と彼は言ったのだ。たしかにひとつの岐路だったなあ、と今になると思う」という吐露が、全編を通じて一番身に染みました。
  • その一方で、新聞配達から始めて新宿に持ちビルを建てた太田篤哉氏の立志伝には感服。「新宿池林坊物語」なる著書もものしているようで、機会があれば読んでみたいところ。