「グラン・トリノ」

グラン・トリノ [DVD]

  • 葬儀で始まって葬儀で終わる構造、ラストシーンに繋がるフィンガー・ガンの伏線、主人公のフォード・グラン・トリノと息子のトヨタ車の対比、驚いてグラスを落とす演出、等々、変に図式的、戯画的な側面が個人的には気に掛かって、さほど感心しませんでした。
  • デトロイト郊外の荒んだ感じが生々しく、市民にも自衛手段が必要とする銃規制反対論者の考え方の背景が少し理解できる気がします。クリント・イーストウッド本人は(共和党支持者でありつつ)銃規制賛成の立場のようですが、本作を見れば明らかなような気もしますし、そんなに単純じゃないという気もします。
  • ラストの「グラン・トリノの歌」については、「アメリカ再生の鍵としての『恐ろしい主題歌』」を読んで興味を持ったものの、すっかり忘れていたためフレッシュに驚いてしまいました。菊地成孔曰く、
    • 「何と、イーストウッドのヴォーカルによる『グラン・トリノの歌』が流れ始めるのである。息子にアレンジをやらせ、ジェイミー・カラムに作曲させ、あまつさえデュエットしているのである」
    • 「枯れ切ってほとんど声が出ない、しかも非常に音程の不安定なイーストウッドの(「渋い喉」などとはとても言えない)死神のようなヴォーカルを、無理矢理聴かされることになるのだ。音楽マニア、特にブルースとジャズの専門家である(中略)ピーター・バラカン氏の静かな錯乱は、察するに余りある」。
    • 「誤解を恐れずに書くが、僕はあれが、ジャズにおけるアルツハイマー・アートの、最初にして最高のものではないかと思う。『天国と地獄を同時に表現する』という、ジャズやブルースのテーゼの、正統的な実現でさえあると言えるだろう」
    • 「この映画はこうして、『二つのショッキングなラストシーン』が並ぶことになる。(中略)完全に独立した第二のショックについては、映画と音楽の関係、その歴史を総動員して考えるに値するだろう。そして僕にはそれこそが『アメリカの再生』の鍵だとしか思えないのである。ウォルトは死ぬ。内なる罪悪感という地獄を終わらせるために。そしてグラン・トリノをビー・バンに託す。復讐の連鎖は止めるのだという、『アメリカの反省』と共に。そしてビー・バンの駆るグラン・トリノは、そこで初めて映し出される(ストレートに天国をイメージさせる)架空のこの町の、ビーチサイドを滑走していく。しかし、それだけでアメリカは再生するだろうか?この恐ろしい主題歌がどこから何のために響いてくるものなのか、知ろうとしないままで」
  • さほど感心しなかったものの、確かに「変な気持ち」は残ります。それが主題歌のせいかどうかまでは分かりませんが。