柳家小さん/興津要 「芸談・食談・粋談」

芸談・食談・粋談 (中公文庫)

  • 書店をフラフラしていて発見。全く存在を知りませんでしたが、食豪・5代目柳家小さんの食談なんて物凄く面白そうだと思い購入。
  • 「門口で医者と親子が待っている」というバレ句の、あまりに即物的などぎつさには引きました。おかみさんも脈絡もなく「隣の夫婦が子供が二人もあんだけど、百燭の電灯つけて真っ最中。こっちは最後まで見届けたいから」などとという話を大らかに語ったりしており、時代の変化が窺われます。
  • 七代目三笑亭可楽に稽古をつけてもらった話がスッと情景が浮かんで素敵です。曰く「いまの馬楽といっしょに稽古にいったんだけど、馬楽のぶんまでおぼえちゃった。それで、ふたりで、帰りに、不忍池でボートに乗って、ボート漕ぎながら稽古してね、はじめは、むこうが『隠居』になる、こっちが『八つぁん』になる。こんどは、こっちが『隠居』でむこうが『八つぁん』になる。そんなことをして、そして、今度は<立花>へ通って客のいないところで、高座にかわりばんこにあがって稽古して、夕方、掃除をして、夕飯を食べて、それで寄席へでかけた」。
  • 器用さと奥深さはトレードオフだという文脈ではありますが、4代目小さんが「あいつ(五代目小さんの小三治時代)の芸は幅がある。おれには、あれだけの幅がない」と言ったというのは面白い。
  • 話が食談にうつると、「あっしゃあ、夏になったって食いものがうまいから、どうってことはないね」、「あっしなんか、朝寝しようとおもったって、腹がすいて腹がすいて、とても寝ていられない」とさすがの発言。
  • 実感がこもっていたのはおにぎりの食べ方。「むすびのうまいのって、やっぱりやわらかいめしはだめ。強わめのめしでなくっちゃあ。それを固くにぎって、塩を濃くして、うんとしょっぱくして、それもめしのなかに塩がしみこむから、朝にぎって、お昼ごろ食うのがうまい。(中略)飲みものは、水か、ぬるま湯。(中略)その塩気のあるむすびをかむ。かんでる最中に水を飲む。そうすると、むすびについてる塩気のところを水が通って、その水のうまさ。塩気とともにずっと水が通ってからむすびをのみこんで・・・。それが一番うまいむすびの食い方」という語りのこのシズル感。
  • オムそばは5代目柳家小さんの発明(「師匠発明のオムレツ焼きそばもうまい」、「あはははは、あれは、たしかにあっしの発明だ」)。
  • 全体的に、興津要が前に出すぎなのは大きな不満。性格的なものもあるのでしょうが、対等な対談どころか、終始興津要の話に小さんが合わせているような体。聞き役、引き出し役に徹して聞き書き形式でまとめたら良かったんじゃないでしょうか。