北野武「全思考」

全思考 (幻冬舎文庫)

  • 語られている内容は陳腐で特段の面白みはなく、口述を書き起こしたであろうライターの文体にもセンスが感じられないため、読後感はかなり空疎。
  • 輿水治比古(クマさん)という料理人の回想を各章の冒頭に設けるコンセプトも意味不明だと思ったのですが、他方で、読み終えてみると、笑福亭鶴瓶に奢る話(「芸人のわがままだよ」)、黙って店のトイレを掃除していたというエピソード、来日したフランス人ファンへの対応(「ありがとう。またいい映画作るよ」)など、むしろ印象に残るのはこの部分。
  • 本人がそれらの具体的なエピソードを語らなかったということから、北野武という人の含羞とカリスマ性が浮かび上がり、更には、陳腐に感じられた本文にも深みが感じられるという立体的な仕組み/戦略的な仕掛け、と言えるのかもしれません。