「kotoba47 特集ゴッドファーザー」

kotoba2022年春号

  • 書店でサラッと開いた内田樹「『ゴッドファーザー』と『北の国から』」が面白かったので購入。ディズニーシーでアトラクションの待ち時間に読了。
  • 内田樹「『北の国から』は、家族というのはついにお互いを理解し合うことはないものだという痛ましい真理を、ただそれだけを描いた物語なのだと思う。事実、この長いホームドラマの中に、家族のメンバー同士が深く理解し合い、共感し合うという場面はついに訪れない、その責任はひとえに黒板五郎(田中邦衛)という父親にある。彼が『家族というのは理解と共感によって結ばれていなければならない』と思い込んだせいで、家族は離散してゆく」「だから、『北の国から』と『ゴッドファーザーはほとんど同じ話なんだよ』。マイケル・コルレオーネは黒板五郎なんだ」とは目から鱗が落ちる指摘。
  • 1作目は雇われ仕事だったのか。「サム・ペキンパーや他の監督に断られた企画を受けざるを得なかった」上に、「撮影中も監督を辞める、辞めさせられるの悶着がパラマウントとはあった」とのこと。
  • マリオ・プーゾという人がずっと謎でしたが、原作は駄作で脚本家としても無能だけれどもコッポラと意気投合したということのよう。コッポラ本人も「原作を読んだときは心を惹かれず、監督するのを断った」「権力をめぐる知的なイタリア人作家による小説だと思って関心を持ったんだがね。アメリカの作家が金儲けを狙って書いたものだと分かってからは、取り合わないことにした」「正直に言えば、彼は優れた脚本家だとは思わない」と散々な言いよう。
  • パートⅡの頃はロバート・デ・ニーロもまだあまり映画に出ておらず「知らない俳優がマーロン・ブランドの若い頃を演じているということしか記憶に残ってなかった」(ピーター・バラカン)というリアルタイムな感想も面白い。
  • クレメンザのパスタがとても印象に残っていたんですが、「ミートボール、ソーセージを加えたアメリカの家庭での定番料理であって、正当なシチリア料理ではない」らしい。
  • シリーズの汚点となったパートⅢは、再編集版「ゴッドファーザー<最終章>:マイケル・コルレオーネの最期」で改善されている様子。借金返済のためとはいえ実の娘を世間の批判に晒すことになったことへの名誉回復行為ではというアル・パチーノの言(「娘を傷つけてしまった、という点は確実に再編集の大きな動機だったと思う」)。

スチャダラパー「大余談」

大余談 (立東舎)

  • 年始に書店で見かけて、気軽に読めるものをと思って購入したものの、忙しすぎて全然読めなかった。
  • めちゃくちゃ内輪の雑談が一番面白く(電気グルーヴ井上三太川辺ヒロシ藤原ヒロシ)、次に他流試合(五味太郎都築響一)。尊敬する先達等、程々の距離感の組合せ(いとうせいこう久住昌之宮沢章夫)があまり面白くない。
  • 井上三太の回が本当にバカバカしくて楽しい。鼻を触っている女性フェチ、エロDVDマイベストの盤面に描いた絵、自作MV「鬼デカサイズ」等々。「もて介」も読んでみたくなった。
  • 川辺ヒロシ半生記も朗らかな人柄がにじみ出ていてやたら面白かった。都立家政スーパーロフトという存在も知らなかった。
  • 藤子不二雄AとFの自宅が近所というのは知らなかったですが、表札まで載せるのはギリギリでは。
  • 都築響一の回も面白かった。暴走族の改造バイク=チカーノのローライダー、今は成り上がりたいハングリーな若者は芸人よりもラッパー(「吉本の学校の学費が払えないと裾野さえもいけないもん」)、地下アイドルコミュニティの生態、盆踊りの野外レイヴ化等々。
  • 「アニ教授のK-POP白熱教室!」(2012年)の時期は確かに少女時代やT-ARAが面白かった。ラストの小泉今日子(2021年)がBTSにドハマリ(「スイマセン、既に入隊しちゃってます」)というのも時代の変遷が感じられて良い。小泉今日子が一人で新大久保をウロウロしているというのも凄い。
  • 玉袋筋太郎の京都のスナックのエピソード(「そしたらもう、こっちは1万円置いて帰るだけだ(パーンと机を叩く)」)がらしくて可笑しい。玉袋筋太郎の息子がヴィジュアル系という驚きも。
  • 性行為についてみうらじゅん「アレって何のためにやってたんだろうって。ポイントも貯まらないのにね、高級スープが贈られてくるわけでもないのに、せっせせっせとやってたことをいま、フッと『オレ、今までなにかおかしなことしてたなあ』って」。
  • 小泉今日子に「男はつらいよ」のオファーがあったというのも驚き(ダブルマドンナの若い方)。「志村さんに気に入られたの。コントの相手として。もっとうまければ、石野陽子になれたんだけど」というのも面白い。
  • しまおまほかせきさいだぁの元内縁の妻=島尾敏雄島尾ミホの孫。ボーズの妻=ファンタジスタさくらだ(あやまんJAPAN)。川辺ヒロシの妻=加藤紀子。NiziUのリマ=Zeebraの娘(「ラップがクソうまいい」)。
  • 憂歌団は外からはとてもそんなふうに見えなかったけどものすごく仲悪かったという話もありますが、スチャダラパーは今年でデビュー32年目、仲は良さそうです。

「ウォール街」

ウォール街 [Blu-ray]

  • NHK-BSプレミアムで1月11日放送。オリバー・ストーン監督。1987年。
  • 金融資本主義批判のつもりが、ゴードン・ゲッコーの振り切れたキャラクターが格好良すぎたというバランス崩壊作品。
  • マーティンとチャーリー・シーンの父子共演。「地獄の黙示録」(ウィラード大尉)以外の出演作を初めて観た気がする。
  • 「強欲は善だ。強欲は正しく、強欲は役立つ(Greed is good. Greed is right, greed works)」や「金は眠らんぞ(Money never sleeps)」が名台詞として有名ですが、「友達が欲しければ犬を飼え(If you need a friend, get a dog)」も格好良い。
  • 証券取引所の立会場で口頭で取引するアナログな様子や、双子の赤字アメリカは二流国になったというスピーチに時代を感じます。
  • 献辞を捧げられているルイ・ストーンとは誰のことかと思ったらオリヴァー・ストーンの父親とのこと。実際に株式ブローカーで、バドの上司ルーのモデルだそう。
  • 21クラブのタルタルステーキが美味しそうでした。

大友克洋「OTOMO THE COMPLETE WORKS 2: BOOGIE WOOGIE WALTZ」

BOOGIE WOOGIE WALTZ (OTOMO THE COMPLETE WORKS)

  • 待ちに待った大友克洋全集。
  • 初期作品はアメリカン・ニューシネマの強い影響と言われることが多いですが、本人曰く「マンガというよりなんかATGのアート作品みたいな方向」「特に影響されたのは今村昌平の『豚と軍艦』で、この頃の作品にチンピラとかやくざがよく出てくるのはそのせい」で、画風としては「子供の頃読んでいたマンガからどんどん離れて、そういうイラストの方向に走っている時期」とのこと。
  • 「自分で勝手に実験していて、人に見てもらう読んでもらうことは全然考えてなかったです。それでよく原稿料貰ってましたね。そんな若気の至りが一番出てた頃の作品で恥ずかしいです」と語るとおり、実験的でエンターテイメント性には乏しいものの「スカッとスッキリ」などは楽しい。
  • はぁ、長らく入手困難だった大友克洋の初期作品とはこういうものだったかという愉しみ。

Various Artists「なにもかも飽きてしまった レディメイド未来の音楽シリーズCDブック編05」

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  • シリーズ1作目でハッときて、2~4作目にかけて少しずつ関心を失いつつありましたが、最終作がまた良い感じ。曰く「何も考えていない人たちによる肩の凝らない音楽。何もかも飽きてしまった音楽愛好家には、格好の箸休め。軽い音楽とお笑いの時間」。
  • 選曲のヴァラエティやバランスが良く、総じて良い塩梅で無限に聴いていられますが、「ロックンロールのあとにひととき流行したフォークソングの影響を感じる優しく親しみやすい曲を、ユニゾン・コーラスでソフトに歌うレコード」の魅力はいまひとつ理解し難い。
  • ウディ・ガスリーが「アメリ共産党の熱心なシンパ」で「党の主張を広めるための歌作りに、心血を注いだ」一方で、「あきれるほどにちゃらんぽらんな人間だったことから、アメリ共産党はウディを『問題のある人物』として、最後まで党員証を与えなかった」という話も面白い(大江田信)。